パートやアルバイトを中心に、労働日や労働時間を確定的に定めず、勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定する、いわゆる「シフト制」と呼ばれる雇用形態があります。業種にもよりますが、飲食店やコンビニなどバイト社員が中心の業態では「勤務日、勤務時間はシフトによる」とだけ書かれている雇用契約書もよく見かけます。
このシフト制に関する労働問題について、令和4年1月にトラブル予防に向けて厚生労働省が「留意事項」を公表しました。そこで、シフト制がもつメリットやデメリット、公表された 「留意事項」 の内容についてみていきたいと思います。
このページの目次
シフト制のメリット
シフト制には、柔軟に労働日・労働時間を設定できる点で会社にも従業員にメリットがあります。会社としては繁忙期に多くシフトに入ってもらえますし、シフト制従業員としては大学の試験中はシフトを減らし、夏休みなど長期休暇中はたくさん働いてたくさん稼ぐといったことが可能になります。
「柔軟性」がシフト制の最大のメリットといえます。
シフト制で起こりうるトラブル
一方で、シフト制の契約内容のあいまいさによって、労働紛争が発生することもあります。
この問題は、コロナ禍で休業を余儀なくされたケースで大きくクローズアップされることになりました。
たとえば、ふだん平均して週3回ほどシフトが入っていたバイト社員について、緊急事態宣言中はシフトを0日とした飲食店がありました。バイト社員としては、この期間まったく収入を得ることができません。本来であれば、週3回分の休業手当(平均賃金の6割以上)を支払うべきですが、実際にはバイト社員に休業手当が払われなかったケースが多発していたと思われます。雇用調整助成金を使えば、休業手当はほぼ100%国が負担してくれたにもかかわらず、です。
また、コロナ禍でなく平常時であっても、たとえば勤務態度のよくない社員のシフトを減らし退職に追い込もうといった事案が裁判になった例もあります。雇用契約書に「シフト制による」とか「週1日以上」などと書かれていても、過去の勤務実態によって勤務時間や勤務日数が認定できる場合は、その実態によって判断されています。一方、過去の実績から所定労働日数が認定できないケースでも、シフト日数を極端に減らしたことを「会社のシフトの決定権限の濫用」として賃金の差額の支払いを命じた裁判例もあります(シルバーハート事件。東京地裁令和2年11月25日)。
「シフト社員には休業手当など払う必要はない」「お店がコロナ禍で苦しいのだからシフト社員も我慢してよ」といった理屈は、通用しないことが多いということです。
「シフト制」労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項
このようなシフト制に関する労働慣行を受けて、令和4年1月7日、厚生労働省が、使用者が現行の労働関係法令等に照らして留意すべき事項を取りまとめました。
いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項
ここでは、特に重要と思われる雇用契約書の記載例について、ほんの一部ですがピックアップしてご紹介します。
【労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方】
労働者の労働契約の内容に関する理解を深めるためには、シフトにより具体的な労働日、労働時間や始業及び終業時刻を定めることとしている場合で あっても、その基本的な考え方を労働契約においてあらかじめ取り決めてお くことが望まれます。例えば、労働者の希望に応じて以下の事項について、 あらかじめ使用者と労働者で話し合って合意しておくことが考えられます。
a. シフトが入る可能性のある最大の日数や時間数
例 「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」など
b. シフトが入る目安の日数や時間数
例 「1か月○日程度勤務」、「1週間当たり平均○時間勤務」など)
c. シフトが入る最低限の日数や時間数
例 「1か月○日以上勤務」、「少なくとも毎週月曜日はシフトに入る」 など
トラブル予防のために大切なこと
大切なことは、シフト制のもつ柔軟性を維持しつつも、シフトの決め方についてあらかじめ労使間で話し合っておくこと。またその結果として、単に「シフト制による」などという曖昧な契約ではなく、できる範囲で上記のように具体的な取り決めをすることで、コロナ禍などでシフトの変動があっても、ある程度はお互いに納得できるような環境を作っておくことだと思います。
まとめ
以上、シフト制の雇用契約にまつわる問題ついてご説明してきました。
・シフト制には、柔軟に労働日を決められる点で労使双方にメリットがある
・一方で、曖昧な契約内容なのでトラブルに発展するリスクもある(特にコロナ禍などの有事のとき)
・シフト制に伴うトラブル予防のため、厚生労働省が留意事項を発表した
・トラブル予防の意味では、シフトの決め方について、あらかじめ労働契約の基本である労使間の話し合いを持っておくことが重要
パート社員を多く採用する業態の企業には、今回公表された留意事項がトラブル予防の参考になると思います。全体で12ページほどのものですから、該当すると思われる会社の方は1度お読みになってみてはいかがでしょうか。
よくわからない、という箇所があれば、当事務所までお気軽にご相談ください。