両立支援等助成金(子育てパパ支援助成金)

男性従業員の育休、費用負担だけで終わらせていませんか?

「〇〇君のところに、もうすぐ子どもが生まれるらしい」

中小企業の社長であるあなたのもとに、男性従業員の吉報が届いたとき、心から祝福すると同時に、人員体制や手続きに不安を感じることもあります。「育休を取りたいと言われたら、人手が足りなくなるな…」「手続きも面倒そうだ…」。こうしたお悩みは、決して珍しいことではありません。

しかし、もしその男性育休が、会社の負担になるどころか、要件を満たせば、会社が数十万円規模の助成金を受けられる可能性になるとしたら、どうでしょうか。

実は、男性従業員に育児休業を取得させることで活用できる「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」、通称「子育てパパ支援助成金」という制度があります。この制度を賢く利用すれば、従業員の満足度を高め、働きやすい職場環境をアピールできるだけでなく、支給要件を満たし、審査を経ることで、会社が助成金を受け取れる可能性があります。

この記事では、数多くの助成金申請を手がけてきた社会保険労務士の視点から、特に中小企業の社長に知っていただきたい「出生時両立支援コース」の活用法、特にこれまで育休取得者がいなかった会社で60万円の支給対象となる可能性があるケースと確認すべき要件を、具体的に解説していきます。

男性育休を単なるコストではなく、会社の成長機会に変える。そのための具体的な方法が、ここにあります。助成金の全体像については、おすすめ助成金一覧で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

【令和8年度最新】両立支援等助成金(出生時両立支援コース)とは

「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」は、男性が育児休業を取得しやすい職場風土づくりを促進し、仕事と育児の両立を支援する中小企業事業主を応援するための制度です。簡単に言えば、「男性従業員に育休を取らせてくれた会社に、国が助成金を支給します」というものです。

このコースには、大きく分けて2つのメニューが用意されています。どちらを選ぶかによって、受給できる金額や要件が大きく変わってきますので、まずは全体像を掴んでおきましょう。

①男性労働者の育児休業取得(1人目20万円~)

まず基本となるのが、男性従業員が初めて育児休業を取得した場合に支給されるメニューです。主な要件は以下の通りです。

  • 対象となる育休:子の出生後8週間以内に開始する、連続5日以上の育児休業
  • 支給額(1人目):20万円
  • 増額要件:男性が育休を取りやすい雇用環境整備措置を4つ以上実施した場合、30万円に増額

「まずは男性育休を社内に導入したい」とお考えの社長にとって、非常に取り組みやすい内容となっています。ただし、1人目の20万円または30万円の支給は1事業主につきいずれか1回限りで、2人目・3人目についてはそれぞれ10万円の支給枠があります。より詳しい内容については、出生時両立支援コースの変更点をご覧ください。

②【最大の狙い目】男性労働者の育児休業取得率の上昇等(60万円)

次に、60万円の支給対象となる可能性がある「男性労働者の育児休業取得率の上昇等」について確認します。実は、この助成金にはもう一つ、60万円という高額受給が可能なメニューが存在します。これまで男性育休の取得実績がない会社でも、直前2事業年度の取得率の推移によっては60万円の対象となる可能性があります。

*令和8年度からは、この60万円のメニューについては中小企業だけでなく、業種を問わず常時雇用する労働者300人以下の事業主も対象となっています。

*「男性労働者の育児休業取得」の助成と「取得率上昇等」の助成には併用上の制限があります。同じ事業年度に両方を申請することはできず、20万円等の支給対象となった男性の同じ子に係る育休は、取得率上昇等の計算にも使えません。

「取得率の上昇」と聞くと、「うちには実績がないから無理だろう」と思われるかもしれません。ただし、要件の考え方を整理すれば、対象となる可能性があります。前々事業年度に対象者がいなかった会社でも、翌事業年度に対象者が育児休業を取得した場合、取得率の要件を満たす可能性があります。

具体的な要件を見てみましょう。

  • 支給額:60万円
  • 主な要件:
    • 男性労働者の育児休業取得率について、前事業年度と比較して30ポイント以上上昇し、50%以上となること等
    • 支給申請日の属する事業年度の前事業年度における男性の育児休業取得率が、前々事業年度と比べて30ポイント以上上昇し、かつ50%以上となっていること等

なぜ「0人→1人」で、この複雑に見える取得率の要件を満たせるのでしょうか?

例えば、申請前々事業年度に配偶者が出産した男性労働者が0人で、育児休業取得者も0人だった場合、その年度の育児休業取得率は0%として取り扱われます。その翌年度である申請前事業年度に、配偶者が出産した男性労働者が1人おり、その1人が育児休業を取得した場合、申請前事業年度の取得率は100%となります。

申請前々事業年度0% → 申請前事業年度100%

この場合、取得率に関する要件は満たす可能性があります。ただし、雇用環境整備措置、業務見直しに係る規定等、一般事業主行動計画、雇用保険被保険者としての継続雇用など、他の要件も確認が必要です。もちろん、取得率上昇等メニューの要件で解説している通り、他の要件もありますが、20万円ではなく60万円が狙えるという事実は、社長にとって非常に大きなメリットではないでしょうか。他のキャリアアップ助成金などと比べても、インパクトの大きい制度です。

より詳しい情報については、厚生労働省の公式案内もご参照ください。
参照:子ども・子育て両立支援等助成金のご案内(厚生労働省)

助成金申請に向けて確認すべき3つの事前準備

助成金の活用を検討する場合は、育児休業の開始前に必要な準備を確認しておく必要があります。この助成金は、男性従業員が育休を取得する前に、会社側でやっておくべき準備がいくつかあります。準備が不足していると、支給要件を満たせない可能性があります。

具体的には、以下の3つのステップが不可欠です。これらは助成金申請の土台となる部分であり、専門的な知識が求められる場面も多いため、顧問社労士に依頼するメリットも大きいと言えるでしょう。

多くの要件は育休開始前に整えておく必要がありますが、一般事業主行動計画は支給申請日までに策定・届出・公表・周知を完了している必要があります。

準備1:就業規則に育児・介護休業法に沿った規定を盛り込む

まず、会社のルールブックである就業規則に、育児休業に関する規定をきちんと定めておく必要があります。特に重要なのは、法改正に対応しているかという点です。
近年、育児・介護休業法は頻繁に改正されており、「産後パパ育休(出生時育児休業)」といった新しい制度も創設されています。

「法律に定めるとおり」といった曖昧な記載では、助成金の要件を満たさない可能性があります。最新の法令に準拠した具体的な制度内容を明記することが不可欠です。具体的には、育児休業だけでなく、産後パパ育休や育児短時間勤務制度など、助成金が求める制度を具体的に規定しておく必要があります。

就業規則の不備は、助成金の不支給に直結する重要なポイントですので、専門家による就業規則のセカンドオピニオンなどを活用し、万全を期すことをお勧めします。

準備2:一般事業主行動計画を策定し労働局へ届け出る

次に、「一般事業主行動計画」という書類を作成し、管轄の労働局へ届け出る必要があります。これは、従業員の仕事と子育ての両立を支援するための、会社の行動計画書のようなものです。

「男性の育児休業取得率を〇%以上にする」「所定外労働時間を削減する」といった目標と、その達成に向けた具体的な取り組みを計画に盛り込みます。この計画は、作成して届け出るだけでなく、

  • 社内の従業員へ周知する
  • 外部へ公表する(厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」などを利用)

というステップまで完了させる必要があります。手続きは複数ありますが、助成金申請では一般事業主行動計画の策定・届出・公表・周知を確認しておく必要があります。

準備3:男性が育休を取りやすい雇用環境整備措置を複数実施する

男性が育休を取りやすい雇用環境整備措置の具体例を示すイラスト。研修の実施、相談窓口の設置、事例の共有、方針の周知という4つの取り組みが描かれている。

最後に、男性従業員が気兼ねなく育休を申し出られるような職場環境を整えるための「雇用環境整備措置」を実施する必要があります。具体的には、以下のような取り組みの中から、申請するメニューや対象者の人数に応じた数を実施します。例えば、「男性労働者の育児休業取得」の1人目では原則2つ以上が必要ですが、出生時育児休業の申出期限を2週間前より長く設定している場合は3つ以上が必要です。

  • 研修の実施:管理職や従業員向けに、育児休業制度に関する研修を行う。
  • 相談窓口の設置:育休に関する相談窓口を設置し、従業員に周知する。
  • 事例の提供:社内の男性育休取得者の事例を収集し、提供する。
  • 方針の周知:男性も育休を取得できるという会社の方針をポスターなどで周知する。
  • 育児休業申出をした労働者が円滑に取得できるよう、業務の配分または人員配置を見直す措置

多くの要件は育休開始前に整えておく必要がありますが、一般事業主行動計画は支給申請日までに策定・届出・公表・周知を完了している必要があります。重要なのは、単に「やりました」というだけでなく、研修で使った資料や、周知した際のメールの文面など、「実施した」という客観的な証拠を残しておくことです。計画的な準備が、後のスムーズな申請につながります。

【当事務所の実績】育休取得0人から60万円の助成金を獲得した事例

ある日、顧問先の社長から一本のお電話をいただきました。「中国人の男性従業員に、もうすぐ子どもが生まれるんだ。生まれたら1ヶ月ほど中国に帰りたいと言っているんだけど、育休の手続きはどうしたらいいかな?」

もちろん、私はすぐに育児休業給付金の手続きや、休業中の社会保険料が免除される制度についてご説明し、手続きの代行をお引き受けしました。従業員の方の生活を支える重要な手続きですから、間違いがあってはなりません。

その後、会社側で活用できる助成金の有無も確認しました。社長のお話を伺いながら、ふと気づいたのです。「社長、このケース、もしかしたら会社が60万円もらえるかもしれませんよ」と。

その会社では、これまで男性従業員の育休取得実績はゼロ。先ほど説明した「0人から1人」のケースに該当する可能性がありました。私はすぐに「出生時両立支援コース」の「男性労働者の育児休業取得率の上昇等」メニューをご提案しました。

社長は最初、「そんなうまい話があるのか」と半信半疑のご様子でしたが、私が制度の仕組みを丁寧にご説明すると、次第に乗り気になってくださいました。そこからは、就業規則の確認、一般事業主行動計画の策定・届出、そして雇用環境整備措置の実施まで、当事務所が全面的にサポート。必要な手続きを一つひとつ、着実にクリアしていきました。

そして、その男性従業員が無事に出産に立ち会い、1ヶ月の育児休業を取得された後、私たちは労働局へ助成金の支給申請を行いました。その結果、60万円の支給決定を受けました。社長からは「猪狩さんに相談して本当に良かった。従業員も喜んでくれたし、会社にもお金が入るなんて最高だよ」と、感謝のお言葉をいただきました。

この事例は、決して特別なものではありません。制度を正しく理解し、適切な手順を踏めば、多くの会社が活用できるチャンスなのです。こうした社長の「知らなかった」をなくし、会社の成長を後押しすることに、何よりのやりがいを感じています。

社長が陥りがちな注意点とよくある質問(Q&A)

ここでは、助成金申請を検討する社長からよくいただくご質問や、見落としがちな注意点をQ&A形式でまとめました。

より専門的な内容については、厚生労働省が公表しているQ&Aも参考になります。
参照:両立支援等助成金(出生時両立支援コース)Q&A(2026年度)

Q. 育休取得者がパートタイマーでも対象になりますか?

A. はい、対象になります。

正社員だけでなく、パートタイマーや契約社員など、いわゆる有期契約労働者の方も助成金の対象となります。ただし、雇用保険の被保険者であることが条件です。中小企業ではシフト制で働く方も多いと思いますが、雇用形態に関わらず、要件を満たせば申請が可能です。

Q. 申請はいつまでに行えばよいですか?期限はいつですか?

A. メニューによって異なります。「男性労働者の育児休業取得」は対象となる育児休業終了日の翌日から2か月以内、「男性労働者の育児休業取得率の上昇等」は要件を満たす事業年度の翌事業年度開始日から6か月以内です。

申請期限は非常に厳格です。例えば、「男性労働者の育児休業取得」で育児休業が10月20日に終了した場合、申請期限は12月20日となります。一方、「男性労働者の育児休業取得率の上昇等」は、要件を満たす事業年度の翌事業年度開始日から6か月以内に申請します。この期限を1日でも過ぎてしまうと、理由の如何を問わず、一切受け付けてもらえません。事前準備を計画的に進め、育休が始まったら速やかに申請の準備に取り掛かることが重要です。

Q. 育児休業給付金の手続きと助成金申請は別物ですか?

A. はい、全く別の手続きです。

これは非常に重要なポイントです。「育児休業給付金」は、育休を取得した従業員本人がハローワークから受け取る生活保障のためのお金です。一方、「両立支援等助成金」は、制度を導入し、従業員に育休を取得させた会社が労働局から受け取るお金です。

手続きの窓口も内容も異なります。両方の手続きをスムーズに進めるためには、専門的な知識が不可欠です。私たち社会保険労務士にご相談いただければ、従業員のための給付金手続きと、会社のための助成金申請を、ワンストップでサポートすることが可能です。

専門家への相談がベストな理由と申請までの全手順

社会保険労務士に助成金申請について相談する中小企業の社長。専門家に相談することで問題を解決し、安心している様子。

ここまでお読みいただき、出生時両立支援コースの魅力と、そのために必要な準備についてご理解いただけたかと思います。同時に、「思ったよりやることが多くて複雑だ」と感じられたかもしれません。

まさにその通りで、だからこそ私は専門家である社会保険労務士へのご相談をお勧めしています。

  • 複雑な要件の正確な判断:自社が本当に60万円コースの対象になるのか、専門家の目で正確に判断します。
  • 法に準拠した書類作成:不備の許されない就業規則や一般事業主行動計画を、最新の法令に合わせて適切に作成・整備します。
  • 時間と手間の大幅な削減:社長や担当者の方が、慣れない書類作成や行政機関とのやり取りに費やす貴重な時間を節約できます。
  • 機会損失のリスク回避:「知らなかった」「期限を過ぎてしまった」という、最ももったいない事態を防ぎます。

当事務所にご相談いただいた場合の、助成金受給までの大まかな流れは以下の通りです。

  1. ご相談・ヒアリング:まずはお気軽にお問い合わせください。会社の状況や従業員の方の予定を詳しくお伺いします。(相談方法もご確認いただけます)
  2. 要件診断・ご提案:最適なコースと、受給に向けた具体的なステップをご提案します。
  3. 事前準備のサポート:就業規則の整備、行動計画の策定・届出などを代行します。
  4. 育児休業の開始:従業員の方に安心して育休に入っていただきます。
  5. 支給申請:必要書類をすべて揃え、当事務所が責任をもって労働局へ申請します。
  6. 助成金の受給:審査を経て、会社の口座に助成金が振り込まれます。

男性従業員の育児休業は、今後の人事労務管理において重要な対応事項になります。その第一歩を、単なる義務やコストで終わらせるのではなく、助成金の要件を確認し、制度整備と人員体制の見直しに活用することが重要です。まずはお気軽にご相談ください。あなたの会社に最適な方法を、一緒に見つけていきましょう。

 

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