ここでは、就業規則が必要な理由についてご説明します。
確かに、労働者10以上の会社は就業規則を作成することが義務付けられているから、とか、労働基準監督署からの指導を受けて作成せざるを得ないから、といったきっかけでやむを得ず就業規則を作る、という理由もあるのかもしれません。
しかし、内容が整備された就業規則を作成することによって、会社にも大きなメリットがあるのです。その点を重点的にご説明していきます。
このページの目次
就業規則が必要な理由1 会社のルールを明確に定める
会社と従業員の関係は「労働契約」という契約関係にあり、会社が賃金を支払う対価として従業員が労務を提供する(働く)ことになります。
会社という多くの人が集まる組織で働いてもらうにあたり、守ってもらわなければならない職場のルールや規律があるはずです。労働者には労働契約に基づく「権利」もありますが、「義務」もあるのです。その義務についても、きちんと書き込むべきなのです。
ポイントは「服務規律」
就業規則の中に、「服務規律」というパート(章)があるものは多いと思います。
いわゆる就業規則の「ひながた」と言われるものの多くは、この服務規律に関する記述が少ないものが散見されます。
ハラスメント関係、個人情報保護、出勤退勤時間の記録だけというモデル就業規則をネットで見ましたが、このような就業規則をそのまま使っている会社もあるようです。その会社にはそれ以外のルールはないのか、と疑問を持ってしまいます。
服務規律は、会社が従業員に対し職場ルールを守る義務を課す、就業規則でも特に重要な部分のひとつです。社員がみなバラバラの時間に出社したのでは業務がスムーズに進みませんし、上司の業務指示を無視して自分勝手な仕事をされても困りますよね。職場にはルールが必要です。
会社の業務指示に従う、仕事に専念する、会社内の秩序を維持するといった労働契約の本質から導かれる義務はもちろんのこと、業務時間中に私的なSNSを見ない、会社に関する秘密を守る、会社の雰囲気に相応しい服装を心掛けるなど、具体的なルールをいかに分厚く書き込めるかがポイントになります。
職場の秩序を守るために、会社のルールを明確にして社員に伝える。これが就業規則が必要な最初の理由になります。
就業規則が必要な理由2 労使トラブルを防止する
理由1とも関係しますが、就業規則でルールをきちんと定めておけば、会社と従業員との間のトラブルを未然に防止する確率が高まります。これが就業規則が必要な最大の理由とも言えます。
従業員とトラブルになると、会社としてはその解決に時間的、精神的な制約を受けることになります。
話し合いで解決すればまだよいですが、万一従業員が辯護士に相談して裁判になったりすれば、解決までの時間は長引き、訴訟費用の負担も大きなものになる可能性もあります。
こうした従業員との労使トラブルを予防するために、就業規則は重要な役割を果たします。
労使トラブルが起こる理由の1つに、職場でのルールがはっきりしておらず、何か問題が起きたときに会社と従業員との意見が異なるというものがあります。
ルールが明確に定められていれば、就業規則を見せて「ここに書いてあるでしょ」と説明することが可能ですよね。
たとえば、業務全体が忙しく残業を指示しようとしたところ、「今日は帰ります」と残業を拒否した社員がいたとしましょう。
この場合、就業規則に残業に関する規定が何もなかったとすると、強制的に残業させられるかどうかは微妙です。
裁判例では、就業規則に根拠があれば残業命令ができるという立場であり、基本的には、残業命令をするには就業規則上の根拠が必要です(36協定さえあれば残業命令ができるという誤解もあるようですが、36協定は残業命令の根拠にはなりません)。
就業規則に以下のような条項があれば、法的に有効な残業命令をすることができ、社員に残業をする義務が発生するといえます。また、完全に納得するかどうかは別として、就業規則を見せながら説明すれば、「残業を手伝ってほしい」と説得しやすくはなると思います。
(例)
第〇条
所定外労働及び休日出勤は、業務命令として、従業員は、正当な理由なくこれを拒否することはできない。
「ここに書いてあるでしょ」と説明した場合に、従業員がスムーズに納得する意味でも、事前に就業規則をきちんと読ませたり、意見聴取をしっかりすることが重要です。少なくとも、服務規律についてはきちんと説明しておくとよいと思います。
もし上記のような残業拒否事件が起こった時に、説明のため就業規則を見せたところ、その社員が「はじめて就業規則を見た」なんてことになると、まったく納得感は生まれないですよね。
なお、実務的にどのようなケースで就業規則によりトラブルを防止できるのか、という具体例は、「就業規則で防げるトラブルとは」のページでもう少し詳しくご説明しています。
就業規則が必要な理由3 労働関係の助成金を受給するために必要
最後に、労働契約の内容という趣旨とは少し外れますが、労働関係の助成金を受給する場合、その添付書類として就業規則の提出が求められるものが多いです。この点も、就業規則が必要な理由の1つといえます。
助成金は、多くの場合労働環境や労働条件を改善した場合に、ご褒美的な意味で支給されるものです。
たとえば、契約社員やパート社員を正社員に転換した場合、男性社員の育児休暇を少しでも取得させた場合、高齢者社員の雇用を安定させるため定年を延長した場合など、長時間労働を解消した場合など、条件は様々です。
就業規則は会社のルール、服務規律を定めるものと説明しましたが、服務規律ばかりでは社員にとって息苦しい会社になってしまいます。労働環境を改善しながら社員の定着を図るため、こうした助成金を活用するのも1つの方法です。
その助成金を申請するにあたり、「就業規則に~~という規定が記載されている」ことが要件となっているものが多くあります。その規定の仕方については助成金独特のかなり細かい条件も定められているので、専門家である社会保険労務士に相談されることをお勧めします。