就業規則で防げるトラブルとは

私どもが日々顧問先からご相談いただく事例は本当に多種多様です。発生するトラブルごとに事実関係が違います。そのすべて紹介しきれませんが、このページでは「就業規則でこの条項を入れておけば解決できたのに」と思うものをいくつかご紹介します。

このページの目次

事例1

【相談内容】

急遽会社で大量の商品封入作業を行う状況が生じたが人員が不足しているため、企画部の社員にもこれを手伝うよう業務上の指示をしたが、「私にはそんな単純作業をするためにここにいるのではない」などとこれを拒絶し、指示通りの仕事をしない。

【ご回答】

雇用契約上の本来的な義務として、社員は会社の指示に従う義務があります。しかし、最近は従業員が自分のこだわりや価値観ばかりを主張して、会社の指示に従わないという事例が増えています。

商品封入作業は本来企画部の仕事ではないのでしょうが、緊急ということもあり、他部署の社員も導入して処理をしようというこの業務指示は十分合理性があるといえます。

「従業員は、会社の指揮命令に従い、労務を提供しなければならない。」など、当たり前のことですが、社員は会社の指揮命令に従うべきことを原理原則として就業規則に盛り込んだほうがいいでしょう。

そして、注意指導を重ねてもなお改善が見られない場合は、服務規律違反として懲戒処分も検討することになります。懲戒処分についても、就業規則に懲戒事由や手続きについての定めが必要になりますので、セットで規定しておきましょう。

事例2

【相談内容】

定時を過ぎたので帰宅を命じたが、「まだ仕事が残ってます」と帰ろうとせず、その分残業申請をする社員がいる。仕事の進捗状況に関する報告もなく、本当に残業をしてまですべき仕事があるのかどうかは不明である。

【ご回答】

未払残業代請求は、よくある労使トラブルの代表格です。

そもそも残業してもまったく残業代を支払わない、残業代の計算方法が間違っているなどの場合は違法ですのでやむを得ないのですが、本件のように、そもそも会社にいる時間がすべて残業と言えるのかどうか、労働時間の判定は難しい論点です。

このような事例では、他に何も証拠が無ければ、タイムカードどおり勤務、残業したものと認定されてしまう可能性もあります。

こうした事態を防ぐためには、就業規則で、「事前に上司に申請しその許可を得たものに限り残業として取り扱う」という、いわゆる残業許可制の定めをしておくと有効です。

こうすることで、会社としても社員の業務の進捗を適切に把握することができますし、ダラダラと会社にいる時間のすべてについて残業代を支払うリスクを避けることができます。

ただ、未払残業代請求を封じるには、このような就業規則に定めがあるだけでは不十分です。

本来残業が必要なときには上司による許可の手続きがきちんと運用されていること、残業代を請求してきた社員については残業が必要なほどの仕事量を抱えていなかったこと(または、上司に引き継ぐべきだった)、帰宅を命じたがその指示を無視していたことなど、運用面で会社がきちんと対応していたことが求められます。

本件では、「仕事の進捗状況に関する報告もなく、本当に残業をしてまですべき仕事があるのかどうかは不明」という部分は運用上まずいように思います。就業規則に残業許可制のルールをきちんと明記した上で、上司がきちんと話をして業務量などを把握し、残業が必要かどうかを判断するようにすべきでしょう。

事例3

【相談内容】

当社では長年、外回りが多く残業が多くなりがちな営業社員に対して、「営業手当」の名目で固定残業代を支給していた。しかし、ある社員から、そんな話は聞いていない、給与明細に残業代が記載されていないとして、残業代を請求された。

【ご回答】

定額残業代とは、割増賃金を毎月定額で支払う方法です。会社側には残業代の計算を簡便にするというメリットがある一方、仮に定額残業代の定めが無効とされた場合は追加の残業代を支払うというリスクを負います。

仮に定額残業代の規定が無効と判断された場合、会社に大きな負担が生じかねないので、もし導入する場合はきちんと要件を満たした規定を盛り込んでおく必要があります。

定額残業代の定めが有効と認められるための条件については、多くの裁判例で示されてきました。

このケースでは「営業手当」が固定残業代として支払われるものであることや、定額残業代が何時間分の残業にあたるのか等を、就業規則や雇用契約書で明確に記載することが求められます。

また、お金にかかわる話ですから、規定するだけではなく、そのことを従業員によく説明することも重要です。できれば、「営業手当」という紛らわしい名称ではなく、「みなし残業手当」など、残業の対価であることが明確になる名称にすることが望ましいといえます。

このような規定がなく、もし本件で仮に「営業手当」が定額残業代ではないと認定されると、残業代を1円も支払っていないことになりますから、追加で残業代を支払う必要があります。しかも、(計算方法は説明すると長くなるので省きますが)その金額はかなり高額になりやすいですから、注意が必要です。

なお、たまに勘違いがあるのですが、定額残業代はあくまで給与計算を楽にしたいという趣旨で導入するものであって、残業代を減らす効果はありません。

たとえば残業10時間分を定額残業代として支払っている場合、実際の残業が1時間だったとしても10時間分を支払わなければなりませんし、実際の残業が15時間だった場合は、差額の5時間分を追加で支払うことになります。

導入の際は慎重にご検討ください。

まとめ

この記事でご紹介したトラブルはあくまで一例です。

就業規則にこの一文が、あるいはこの一言があればトラブルを予防できた、というケースにこれまで多く遭遇してきました。できればトラブルが発生する前に就業規則を整備し、労使トラブルを未然に防止したいものです。

当事務所では、就業規則の診断(セカンドオピニオンサービス)を行っております。就業規則に潜むトラブルの要因を診断し、改善提案も行っていますので、少しでもご心配のある方はお気軽にご相談ください。

 

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