ここでは、建設業許可を取得する上で重要な条件の1つである、経営業務管理責任者についてご説明します。
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経営業務管理責任者とは
経営業務管理責任者とは、営業取引上対外的に責任を有する地位にあって、経営業務の執行等建設業の経営業務について総合的に管理する責任者のことをいいます。
簡単に言うと、建設業の「経営」に関する責任者のことです。略して「経管(けいかん)」と呼ばれることもあります。
建設業許可を受けるためには、法人であれば常勤役員(取締役など*)、個人事業主であれば事業主本人あるいは支配人(登記されている者のみ)が経営業務管理責任者になる必要があります。
※役員と言っても、監査役、執行役員、会計参与、監事等は経営業務管理責任者になることはできません。
経営業務管理責任者なることができる役員とは、取締役(株式会社または有限会社)、執行役(委員会設置会社)、業務執行社員(合同会社など)など、業務執行権限がある役員のことです。
経営業務管理責任者は、誰でもなれるものではありません。「常勤」であり、かつ一定の「経験」を有する方のみが、経営業務管理責任者になることができます。
経営業務管理責任者になるための条件
条件① 常勤であること
原則として経営業務管理責任者は、「常勤」であることが必要です。分かりやすく言うと、経営業務管理責任者は、休日を除き、就業時間中、主たる事務所に常駐することが求められています。
もちろん、家族経営の会社や中小企業等では社長が現場に出ることもあると思いますが、一定の条件を満たせば例外的に認められます。
さて、この「常勤」性が求められることから、経営業務管理責任者には次のような制約があります。
- 他の建設業者の経営業務管理責任者や専任技術者とは兼任できない(もし他の業者で登録があると、審査の時点で判明してしまいます)。
- 他の会社(建設業以外でも)の常勤役員などにはなれない。
- 他の会社で、専任性が求められる役職(宅建業の専任取引士、建築事務所の管理建築士など)にはなれない。
- 自宅(住民票上の住所)と本社が著しく遠く、通勤が困難と認められる場合は経営業務管理責任者になれない。都道府県により基準は異なると思いますが、通勤におおむね片道1時間30分以上かかる距離だと、認められないことが多いです。
ただし、単身赴任の場合など、自宅のほかに居所(セカンドハウス)を持っている場合は、その家の賃貸借契約書や光熱費の領収証、通勤定期券などを提出すれば認められることがあります。(それ以外にも認められるケースはありますので、ご相談ください)。
一方で、要件を満たせば、次のことは認められます。
- 同じ人が、同一営業所の経営業務管理責任者と専任技術者を兼任すること。
- 同じ人が、複数業種の経営業務管理責任者を兼ねること。
- 同じ人が、同一営業所の経営業務管理責任者と宅建業の専任取引士を兼ねること。
条件② 経験があること
経営業務管理責任者になるには、以下のいずれかの経験が必要です。
- 5年以上、建設業を営む法人の役員(取締役など)、個人事業主あるいは支配人(登記されている者のみ)、令3条使用人(建設業許可を持つ業者の支店長や営業所長などで、令3条使用人として登録されていた者のみ)の地位に就いていた経験
- 5年以上、建設業を営む法人の執行役員等として、総合的に管理した経験
- 建設業に関し6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(部長など)として経営業務管理責任者を補助した経験
- 建設業の役員2年以上+建設業に関する財務部長、営業部長、人事部長の経験(合計して5年以上)
- 建設業の役員2年以上+建設業以外(飲食業などでもOK)の役員の経験(合計して5年以上)を有する者が、直属の部下に経験5年以上の財務部長、営業部長、人事部長を置く場合
5種類もありややこしいですが、私の感覚だと、95%以上のお客様が(1)の要件を満たして申請されています。
(2)(3)は、執行役員や部長の経験になりますが、執行役員や部長は取締役と異なり登記がされません。そうすると、対象の方が執行役員や部長であったことを証明する必要が出てきます。
また、(4)(5)は、令和2年10月の法改正で追加されたものです。たとえば(5)では、建設業の役員2年+建設業以外(飲食業などでもOK)の役員3年の経験を有する者が、直属の部下に経験5年以上の財務部長、営業部長、人事部長を置けば条件を満たす、など要件が緩和されました。
ただ、これら(2)~(5)の要件で申請するためには、執行役員や部長であったこと、あるいは部長たちが直属の部下で5年以上経験があることなどを証明する必要があります。この場合、当時の組織図、業務分掌規程、議事録など、求められる証明資料が複雑になりがちです(もちろん、過去の議事録等をさかのぼって作成してはいけません)。
中小企業やご家族で経営されている業者様には、あまり現実的ではないと思います。
まとめると、5年間建設業を営む法人の常勤役員であった方、または個人事業主として5年間の経験を有する方であれば、経営業務管理責任者になることができます。このケースが圧倒的にシンプルで、実務でも多いです。
なお、この経験は、取得しようとする業種以外の建設業に関するものでも構いません。
たとえば、管工事の許可を取得しようとする場合、電気工事を営む会社役員等の経験が5年ある方でも、経営業務管理責任者になることができます。
要件を満たすことの証明書類
さて、常勤性と経験の要件を満たしたとしても、建設業許可を受けるためには、「経験しました」などと口でいうだけではダメで、裏付けとなる証明書類の提出が求められます。
具体的にどのような証明書類が求められるか、については、都道府県により種類や分量はかなり差があります。
ここでは、神奈川県知事の新規許可の例で、代表的なものをご説明します。
①常勤であることを証明する書類
代表取締役等、個人事業主については、不要です。
代表取締役以外の役員、個人の支配人については、基本的には健康保険証。建設国保に加入している場合は、建設業国民健康保険加入証明書原本。
②経験を証明する書類
<建設業許可を持たない法人の業者での経験の場合>
- 履歴事項証明書
- 次のいずれか
法人税確定申告書(事業目的欄に建設業などと書かれているもの)
法人税確定申告書が無い場合、工事請負契約書や注文書(1年につき1件)
工事請負契約書や注文書も無い場合、請求書の控え+入金が確認できる通帳
※東京都では、法人税確定申告書ではなく、工事請負契約書や注文書を、1年に1件ではなく、5年間の期間中のものすべてが求められます。神奈川県よりもハードルが高くなっています。
<建設業許可を有する法人の業者での経験の場合>
- 履歴事項証明書、許可通知書のコピー
<個人事業主としての経験の場合>
- 所得税確定申告書
以上が代表的なものですが、お手元にこのような資料が残っていない場合もご相談ください。種類が多いのですべてを記載はしませんが、ここに書かれていない証明書類もまだまだあります。
よくあるご相談として、「昔の確定申告書を無くしてしまった」というものがありますが、税務署で開示請求をすることにより申告書のコピーを発行してもらえる可能性もあります。
原則通りの書類が揃えきれなくても、常勤性や経験を認めてもらえるための様々な方法を一緒に検討していきましょう。