ここでは、就業規則についての基本的な内容をご説明します。
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就業規則とは
就業規則とは、会社が労働時間、賃金、そのほかの労働条件や職場の規律を定めた文書のことです。
労働契約法第7条では、一定の条件(後ほど説明します)を満たしていれば、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする、とされています。
簡単に言うと、就業規則=労働契約の内容 ということです。
就業規則に書くべき内容
労働基準法によって、就業規則に記載すべき内容は次の1、2のとおり定められています。
1 必ず記載しなければならないこと(絶対的記載事項)
- 勤務に関すること
- 始業及び終業の時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇(労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合は就業時転換に関する事項)
- 賃金(賞与など、臨時の賃金等を除く)について
- 決定、計算及び支払の方法
- 賃金の締切り及び支払の時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
2 もし取り決めがある場合は記載すべき内容(相対的記載事項)
- 退職手当(退職金)に関する事項
- 適用される労働者の範囲(正社員のみか、パートにも支給するか等)
- 退職手当の決定、計算及び支払の方法
- 退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等(賞与など)及び最低賃金額に関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担に関する事項
- 安全及び衛生に関するに関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 当該事業場の労働者のすべてに適用されるものに関する事項
この相対的記載事項については、定めがない場合には記載する必要はありません。
たとえば、退職金制度を設けていない会社であれば、退職金に関する記載は、法律的には不要です(ただ、実務上は「退職金は支給しない」と明記するケースの方が多いと思います)。
よい就業規則になるかどうかのポイントの1つは、「当該事業場の労働者のすべてに適用されるものに関する事項」をどれだけ充実させられるか、という点にあります。
「すべてに適用されるもの」というのはつまり社内ルールですから、この記載が充実しているということは、従業員が守るべきものを含めた社内ルールが明確に定められているということになります。
職場の規律が保たれやすく、またトラブル予防にも有効です。
ポイントは「服務規律」に関する条項になるのですが、詳しくは「就業規則が必要な理由」の記事でご紹介します。
就業規則の効力発生要件
就業規則は、
- 内容が合理的である
- 労働者に周知されている
場合に、はじめて就業規則が労働契約の内容となる、とされています(労働契約法第7条)。
つまり、就業規則は、会社側が一方的に作るだけでは有効に成立しません。
就業規則は労働契約の内容ですから、労働者にも知ってもらうために「周知」する必要があります。周知というのは、具体的には就業規則の冊子を社内に備え置いたり、イントラネットで閲覧できる状態に置くことです。
就業規則を労働者に見せることを嫌う社長の方も少なからずいらっしゃいます。就業規則は労働者の権利ばかり書いてあって、労働者に有利、会社に不利と思い込んでいるからだと思います。
しかし、当事務所にご依頼いただければ、きっと就業規則を社員に見せて共有しよう、と思っていただけると思います。どのような内容を盛り込めば就業規則を社員に見せようと思えるのか、については別の記事でご説明しています。
就業規則と、法令や雇用契約との関係
法令と就業規則の関係
就業規則と労働基準法との関係については、
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」と定められています(労働基準法第13条)。
労働基準法には、労働条件の最低基準が書かれています。これより労働者に不利な内容を就業規則で定めても、その部分は無効になります。
たとえば、
使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。(労働基準法第35条)。
という法律がありますが、「ウチの会社は、休みは月に1回だけだよ」として就業規則に記載しても、その就業規則の定めは無効になります(労働基準法に従い、週1回以上の休日を与える必要があります)。
また、
「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。」と定められています。(労働基準法92条)
最低賃金法という法律がありますが、たとえば時給500円など最低賃金を下回る金額を就業規則に定めてもそれは無効であり、最低賃金を支払う必要があります(最低賃金の額は、都道府県により定められています)。
労働契約の内容は会社と労働者で決めるのが原則ですが、最低ラインは守りましょう、ということですね。
労働契約と就業規則の関係
就業規則は労働契約の内容である、とご説明しましたが、就業規則とは別に雇用契約書を交わすことが通常だと思います。雇用契約書も、当然ですが契約内容を記載するものです。
雇用契約書と就業規則とで内容に違いがある場合は、どちらが優先されるかというと、2つを比較して労働者に有利な方が優先されることになっています。
たとえば、
就業規則に「通勤手当は、通勤に要する実費を支給する。ただし、上限は月額20,000円とする」
雇用契約書に「通勤手当 月35,000円」
とそれぞれ書いてあったとします。新幹線利用など、遠方から通勤する労働者のケースでしょうか。
この場合、雇用契約書の方が労働者に有利なので(通勤費を35,000円もらえる)、雇用契約書の内容が優先します。
逆に、
就業規則に「通勤手当は、通勤に要する実費を支給する」(上限の定め無し)
雇用契約書に「通勤手当 実費(上限20,000円)」
とそれぞれ書いてあり、実際には月30,000円の定期代がかかる場合、就業規則が優先し、通勤費は30,000円になります。
労働者は雇用契約書の内容を確認してサインしているのに、「(上限20,000円)」の部分は就業規則違反で無効ということになりますので、注意が必要です。
まとめ
以上、就業規則に関する基本的な知識についてみてきました。
必ず書かなければならない記載事項が定められていたり、法律や雇用契約との優先関係など、なかなかややこしいこともあると思いますが、そのあたりはよく分からなければ社労士にご相談してください。
この記事でぜひ分かっていただきたいのは、就業規則は労働契約の内容である、ということです。労働者の権利を守る労働基準法とは異なり、就業規則は会社と労働者との間で協議しながら決めていく会社のルールです。
お互いが気持ちよく働ける職場を実現するにはどのような就業規則にすればよいのか、経験豊富な社労士がそのお手伝いをしていきますので、ぜひお気軽にご相談ください。