労使トラブルは、社員の退職時に発生することが多いです。
退職するということは、社員は会社に対して何かしらの不満を持っているからでしょうし、また在職中に会社に対して何か請求するというのはなかなかできないものです。
ここでは、そうした退職時のトラブルを就業規則で解決できる事例をご紹介します。
事例1
【相談内容】
ある日から突然無断欠勤して連絡が取れなくなった社員がいます。前日までは普通に仕事をしていたので正直驚いています。
【ご回答】
電話やメール、LINEなどで連絡を試みているのですがまったく返信が無いまま、30日間経過しました。この社員を退職扱いとすることができるでしょうか。
会社側には何の心あたりもなく、せめて話ができれば説得ができたり退職手続きに勧めたりできるのですが、連絡が全くつかないということで困ってしまうケースです。
一応、無断欠勤30日間ということは、社員側の労働契約上の義務である労務提供の義務を果たしていないことになるので、労働契約の解除(普通解雇)をすることができるケースと思われます。
しかし、解雇が有効に成立するためには、内容証明郵便などでする解雇の意思表示(解雇通知)がその社員に到達する必要があります。このケースでは、解雇通知をその社員が受け取るのは、なかなか難しいでしょう。
すると解雇は有効には成立せず、社員の地位は存続することになりますので、給与の支払いは不要でしょうが、社会保険料の会社負担は残ることになります。
無理やり解雇による退職手続きを進めてしまったら、本人から解雇無効の訴えをされるリスクが残ります。
この場合、就業規則に
「会社に連絡ないまま〇〇日無断欠勤が続いているときは、当然に退職とする」
といった規定があれば、スムーズな退職手続きが可能です。当然に退職するのですから、解雇通知などの通知をする必要もなく、この規定にもとづいて雇用契約を当然に終了させることができます。
この規定は、最近出現してきた退職代行業者から本人を代行して退職届が届いた、本人の意思確認をしようとしても連絡が取れない、といったケースでも対応可能と考えられます。
事例2
【相談内容】
重大な非違行為が判明した社員に対し懲戒解雇をしようとしましたが、懲戒処分に関する規定が就業規則に記載されていないことを理由に、解雇無効の訴えを起こされました。どのように対応すればよいでしょうか。
【ご回答】
懲戒解雇を含む懲戒処分というのは、社員にとって非常に重たい不利益ですので、あらかじめどのような場合に、どのような手続きで、どのような内容の処分がされるのか、就業規則に定めておく必要があります。
また、懲戒解雇にあたっては、きちんと被疑事実を調査する、その事実が就業規則に記載された懲戒事由にあたるか確認する、調査内容について本人に弁明(反論)の機会を与える、取締役会や懲罰委員会など定められた機関で処分を決定する、本人に懲戒解雇を通知するなど手順を踏んで行う必要があります。
社員がどんなに悪質な行為をしたとしても、何の規定もないままに社長が「お前はクビだ!」などと言って懲戒解雇が成立するほど、懲戒解雇は甘いものではないのです。
懲戒処分に備えて、懲戒事由に関する規定をきちんと定めておくと、懲戒解雇する際のトラブルを予防することができます。
懲戒に関する規定がまったく無かったことを理由に、懲戒処分が無効とされた裁判例もありますので、ご注意ください。
ここに挙げた以外にも、退職後には未払残業代請求、ハラスメントによる損害賠償請求、解雇無効確認など、元従業員とのトラブルが生じやすい傾向にあります。
裁判になった場合、弁護士を立てて争うことが多いでしょうが、その際に就業規則に必要な規定がないとか、就業規則があっても規定通りの運用がなされていなかったとなると、会社側の主張をまとめる弁護士さんとしても困ってしまうと思います。
上の事例でみたように、きちんと規定しておけば予防できるトラブルも多いです。
こうしたトラブル予防のための就業規則、そして就業規則に基づく日々の運用や手続きは、日常の労務管理に携わっている身近な社労士が一番詳しいといえます。トラブルになる前に、日常の中で労務リスクがありそうだと感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。