ここでは、就業規則の専門家である弁護士と社会保険労務士の違い、および就業規則に強い社労士の選び方についてご説明します。
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弁護士と社会保険労務士の違い
就業規則の作成を依頼する専門家といえば、弁護士か社会保険労務士(社労士)のどちらかだと思います。そこで、まずは弁護士と社会保険労務士の違いについて検討してみます。
弁護士
言わずと知れた、法律に関するエキスパートです。
弁護士は、労働問題のみならず、交通事故、離婚、債権回収、契約書作成、刑事事件などあらゆる分野の法律事務を扱います。
また、大きな特徴は、裁判手続きは弁護士にしかできない、という点にあります。訴訟のほか、労働問題で言えば労働審判、あっせん手続き、個別労働関係紛争など、具体的な紛争が発生してしまった「後」は弁護士に依頼するのが適切と言えます。
相談の場合の報酬体系はタイムチャージ(1時間〇万円、など)、顧問契約をされる場合もこれに準じて「1か月につき相談は〇時間まで」などとされている例が多いのではないでしょうか。
社会保険労務士(社労士)
社会保険労務士は、その名のとおり労務、社会保険の分野に特化したエキスパートです。
普段の労務管理、給与計算や社会保険手続きなど日常的に関与することが多く、また費用(報酬)の面からみても、より敷居が低く身近な存在としてお気軽にご相談いただける存在ではないかと思います。
社労士は「現場」を知っています。普段から会社の労務管理全般の相談指導に携わっていますから、正確や給与計算や社会保険手続き、あるいは日常の適切な労務管理制度の構築などを通じて、労使間のトラブルが起こらないようにするという「紛争予防」に強い専門家と言えます。
もし労使トラブルが発生し、裁判手続き等に移行したときは弁護士に引き継ぐことになりますが、その場合も弁護士の方に「この証拠があれば勝てる」と思ってもらうよう、日常的な対応をするのが社労士の仕事と心得ています。
また、労働関係の助成金を専門とするのはやはり社労士です(おそらく、キャリアアップ助成金の申請を代行する弁護士というのはほとんどいないのではないでしょうか?)。
どちらに頼むのが良いのか?
日常的に労使トラブルが頻繁に起こる会社の場合は、裁判を見越して最初から弁護士に依頼される方がよいでしょう。
一方、労使トラブルがそんなにある訳では無いがいざという時に備えたい、日頃から就業規則の運用も含めて相談したいという場合は、社労士に依頼した方がニーズに合うかもしれません。
当事務所の社労士が就業規則のご依頼をお受けする場合、賃金台帳やタイムカード等のサンプルを拝見しながら会社の実態を把握していきます。
こうした細かい労働時間管理、給与計算など現場の実務については、普段社労士がサポートしていることが多いのではないでしょうか。「残業代を計算するときに、通勤手当は含めますか」「採用時に内定者からどのような書類を提出させればいいですか」など実務的なことは、現場を知っている社労士の方が聞きやすいと思います。
また、社員がちょっとした不満を言ってきた程度でまだトラブルになるほどのレベルではない場合に、弁護士にご相談するのは大袈裟、敷居が高い、とお感じの方もいらっしゃると思います。トラブルを芽の小さいうちに摘み取り、未然に予防するのは社労士の得意分野です。まず社労士に相談いただければ、トラブルに発展しそうなのかどうか感触をお伝えすることができます。本当にトラブルになりそうであれば、早めに弁護士につなぐこともできます。
さらに、助成金の受給をご希望の場合は、助成金申請のために特有の条項が求められることになります。助成金の実務は明らかに社労士の方が精通していますから、社労士に依頼したほうがスムーズと言えます。
就業規則作成に強い社会保険労務士(社労士)の選び方
社労士の取り扱う業務範囲は、就業規則の作成以外にも、社会保険手続き、給与計算、年金請求など多岐にわたります。すべての社労士がその全分野に精通しているわけではなく(当事務所もたとえば障害年金手続きは一切取り扱っておりません)、就業規則に強い社労士もいれば、そうでない方もいるのが現実です。
では、就業規則に強い社労士を選ぶには、どうすればよいのでしょうか。
ホームページやパンフレットなどで就業規則について詳しく説明しているかを確認するのもよいでしょうし、簡易的な就業規則の診断を依頼してみるのも1つの方法です。
また、もし御社に現在就業規則があれば、それを社労士に見せて意見を求めてみるとよいと思います。
そのときに、その社労士からどのような質問をされるか、どれくらいの数の質問がされるか、「質問力」で見分けることができるかもしれません。
あまり就業規則を読み込んだり作成していない社労士の場合は、御社の就業規則をパラパラめくりながらも、あまり質問が出てきません。
特に質問することなく社労士側が一般的な法令知識を押し付けてくることもあるかもしれません。しかし、就業規則は100社あれば100通り。御社の実情を踏まえず一般的な法令知識のみで診断するのであれば、御社にとってよい就業規則はできません。
当事務所が就業規則の診断をする場合、まずいろいろお尋ねします。
ポイントを押さえた質問の中で、会社が意識していなかった問題点や、実態とのズレが浮かび上がってきます。中には、「これまで考えたこともなかった」という論点も見つかることもあります。いただいたご回答の中で、法的に、またトラブル予防の観点等から、こうした方がいいと改善提案を重ねていきます。
就業規則を見せたときにどういう反応をするかで、就業規則に強い社労士かどうか見極めてみてみるとよいと思います。会話の中で、御社との相性も感じ取れると思います。