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「許可を取ったのに…」元請に指摘され発覚する“みなし登録”とは
「苦労して電気工事業の建設業許可を取得したから、これでどんな電気工事も自由にできる」…そう思っていませんか?実は、それだけでは十分ではないかもしれません。
先日、ある会社の社長が慌てた様子で当事務所にご相談に来られました。許可を取得して一安心していた矢先、大手元請け会社からこう言われたそうです。
「電気工事業の建設業許可があるのは承知していますが、『みなし登録の番号』を教えてください」
社長は「みなし登録…?なんだそれは?」と、すぐには状況を理解できなかったと言います。許可を取ったのになぜ別の手続きが必要なのか、もしかして今まで気づかないうちに法律違反をしていたのではないかと、大きな不安を感じていらっしゃいました。
もし、あなたも同じような状況なら、ご安心ください。これは多くの社長が陥りがちな落とし穴であり、決して特別なことではありません。当職がご相談に乗ったこの社長のケースでは、建設業許可を取得済みだったため、主任電気工事士や備付け器具など電気工事業法上の要件も満たしていれば、登録申請ではなく開始届という形で手続きを進めることができました。
では、なぜ建設業許可だけでは電気工事業を自由に営めないのでしょうか。その理由は、「建設業法」と「電気工事業法」という、目的が異なる2つの法律によって規制されているからです。
- 建設業法:建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護することが目的です。いわば、工事全体の品質や会社の経営能力を担保するための法律といえます。
- 電気工事業法:電気工事の欠陥による危険や障害の発生を防止し、保安を確保することが目的です。
つまり、建設業許可は「会社として一定規模以上の工事を請け負う資格」を証明するもの、電気工事業者の届出は「電気工事の安全性を確保する体制」を証明するもの、とそれぞれ役割が分かれているのです。
電気工事業者の4分類|あなたの会社はどれに該当する?
それでは、元請けから求められた「みなし電気工事業者」とは一体何なのでしょうか。この点を理解するために、まずは電気工事業者が法律上どのように分類されるのかを見ていきましょう。
電気工事業者は、大きく分けて「建設業許可の有無」と「取り扱う電気工作物の種類」という2つの軸で、以下の4つに分類されます。
- 登録電気工事業者:建設業許可を持たず、一般用電気工作物等のみ、または一般用電気工作物等と自家用電気工作物の工事を行う事業者。
- 通知電気工事業者:建設業許可を持たず、自家用電気工作物の工事のみを行う事業者。
- みなし登録電気工事業者:建設業法に基づく建設業許可を受けた建設業者で、一般用電気工作物等の電気工事を行う事業者。
- みなし通知電気工事業者:建設業法に基づく建設業許可を受けた建設業者で、自家用電気工作物の電気工事のみを行う事業者。
この記事を読んでくださっているあなたの会社は、すでに建設業許可をお持ちのはずですから、3番か4番の「みなし」がつく事業者に該当することになります。
「みなし」とは?建設業許可を持つ事業者への特例制度
「みなし」という言葉は少し分かりにくいかもしれませんが、これは建設業許可を持つ事業者に関する特例制度と考えると理解しやすいでしょう。
「みなし」制度は、建設業法に基づく建設業許可を受けた建設業者について、電気工事業法上の登録との二重規制を避けるために設けられた「建設業者に関する特例」です。
本来、電気工事業を営むには電気工事業法に基づく「登録」が必要ですが、建設業許可を取得している事業者は、すでに建設業法の要件によって技術力や経営基盤が審査されています。そのため、改めて電気工事業法で厳格な「登録」審査を求めるのは二重規制となってしまいます。
そこで、法律は合理的な配慮として、建設業許可業者については簡便な「届出」または「通知」で済ませることを認めているのです。これを「登録電気工事業者とみなす」「通知電気工事業者とみなす」ことから、「みなし」制度と呼ばれています。
「みなし登録」と「みなし通知」どちらの手続きが必要?
では、あなたの会社は「みなし登録」と「みなし通知」のどちらの手続きをすればよいのでしょうか。これは、請け負う工事の種類によって決まります。
- みなし登録(届出)が必要なケース
一般家庭や小規模な店舗の配線工事など、電力会社から600V以下の電圧で受電する場所の工事(一般用電気工作物等)を扱う場合です。これに加えて、工場やビルのような自家用電気工作物の工事も行う場合もこちらに該当します。
(例:一般住宅のコンセント増設、店舗の照明設備工事など) - みなし通知(通知)が必要なケース
工場やビルなど、電力会社から高圧で受電する設備の工事(自家用電気工作物)のみを扱い、一般用電気工作物の工事は一切行わない場合です。
(例:工場の変電設備工事、ビルの幹線設備工事など)
一般用・小規模事業用・自家用の区分は電気事業法上の定義によって決まるため、単に建物が「住宅かビルか」だけで判断するものではありません。
多くの電気工事業者は一般住宅や店舗の工事も手掛ける可能性があるため、「みなし登録」の届出が必要になるケースがほとんどです。なお、これらの手続きは、電気通信工事の許可とは根拠法や手続きが異なるため注意が必要です。
混同注意!「営業所技術者等」と「主任電気工事士」の決定的違い
建設業許可と電気工事業届出で、担当者の方が最も混同しやすいのが「人」に関する要件です。建設業許可で求められる「営業所技術者等(旧:専任技術者)」と、みなし登録電気工事業者の届出で求められる「主任電気工事士」。この2つは、同じ人物が兼任することも可能ですが、法律上の役割は全く異なります。
この違いを理解しないまま手続きを進めると、思わぬ不備につながる可能性があります。ここで、両者の違いを明確にしておきましょう。
- 営業所技術者等:建設業法に基づき、営業所に常勤して、請負契約の適正な締結や履行を技術面から確保する責任者です。
- 主任電気工事士:電気工事業法に基づき、一般用電気工作物等に係る電気工事を行う営業所ごとに置かれ、工事の危険や障害が発生しないよう、作業の管理・監督を行う責任者です。
特に重要なのは、求められる資格の違いです。例えば、1級電気工事施工管理技士は、一定の場合に電気工事業の営業所技術者等の資格要件を満たしますが、それだけでは主任電気工事士にはなれません。主任電気工事士になるには、原則として第一種または第二種電気工事士の資格が必須となるのです。
主任電気工事士の要件|第二種電気工事士は実務経験が必須
主任電気工事士になるための資格要件は、次のいずれかを満たす必要があります。
- 第一種電気工事士であること
- 第二種電気工事士免状の交付を受けた後、電気工事に関し3年以上の実務経験を有すること
第一種電気工事士であれば資格取得後すぐに要件を満たしますが、第二種電気工事士の場合は「免状交付後3年以上の実務経験」が必須である点に注意が必要です。この実務経験は、届出の際に証明書類の提出を求められる重要なポイントです。この要件をクリアしているかどうかが、手続きがスムーズに進むかの分かれ道になります。
みなし登録電気工事業者の届出実務|必要書類と手続きの流れ
それでは、実際に「みなし登録電気工事業者」の届出を行う際の手続きについて、具体的に見ていきましょう。ここでは、当事務所がある神奈川県を例に、一般的に必要とされる書類を解説します。(※自治体によって様式や必要書類が異なる場合がありますので、必ず管轄の窓口にご確認ください。)
【主な必要書類リスト(神奈川県の例)】
- 電気工事業開始届出書
- 主任電気工事士に関する誓約書
- 備付器具調書
- 主任電気工事士の電気工事士免状の写し
- 主任電気工事士等の実務経験証明書(主任電気工事士が第二種電気工事士の場合)
- 主任電気工事士の雇用証明書(建設業許可証に記載された申請者以外が主任電気工事士となる場合)
- 登記事項証明書(建設業許可証記載の住所と申請者住所が異なる場合など)
- 建設業許可証のコピー
手続きの流れは、これらの書類を準備し、電気工事業を開始した場合には、遅滞なく管轄の窓口へ提出するというものです。書類に不備がなければ、神奈川県では「電気工事業開始届受理書」が交付され、届出受理番号が付与されます。元請会社から「みなし登録番号」などと求められた場合、通常はこの届出受理番号を確認することになります。
より詳しい手続きについては、経済産業省が公開している手引きも参考になります。
参照:経済産業省のみなし登録電気工事業者の開始届出に関する手引き
【要注意】建設業許可と電気工事業届出の窓口は別です
ここで非常に重要な注意点があります。それは、申請の窓口です。建設業許可の申請は「建設業主管課」などで行いますが、みなし電気工事業者の届出は、全く別の部署が担当していることがほとんどです。
例えば、当事務所のある川崎市の事業者の場合、建設業許可の窓口は神奈川県県土整備局事業管理部建設業課、みなし登録電気工事業者の開始届は神奈川県くらし安全防災局防災部消防保安課が窓口となります。
なお、電気工事業法の届出先は、建設業許可が知事許可か大臣許可かではなく、電気工事業を営む営業所の所在地・区域によって決まります。神奈川県内でも営業所の所在地によって提出窓口が異なるため、事前に管轄窓口を確認することが重要です。
営業所に備えるべき測定器具一覧
電気工事業法では、適正な工事を行うために、営業所ごとに特定の測定器具を備え付けることが義務付けられています。届出の際に、これらの器具が揃っているか確認されることがあります。
【一般用電気工作物等のみの工事を行う営業所】
- 絶縁抵抗計
- 接地抵抗計
- 回路計(抵抗および交流電圧を測定できるもの)
【自家用電気工作物の工事も行う営業所】
上記3点に加えて、以下の器具も必要です。
- 低圧検電器
- 高圧検電器
- 継電器試験装置
- 絶縁耐力試験装置
※継電器試験装置と絶縁耐力試験装置は、必要な時に使用できるよう借用等の措置が講じられていれば備え付けは不要です。
これらの器具は、電気工事の安全性を確認するために不可欠なものです。法律上の義務ですので、必ず営業所に備えておくようにしてください。

届出を忘れるとどうなる?罰則と見過ごせない事業リスク
もし、みなし電気工事業者の届出をしないまま事業を行ってしまった場合、どうなるのでしょうか。電気工事業法上の登録を受けずに電気工事業を営んだ場合には、1年以下の拘禁刑若しくは10万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。また、建設業許可を受けた事業者が「みなし登録」の開始届や「みなし通知」の開始通知を行わなかった場合には、2万円以下の罰金が定められています。
しかし、罰金以上に深刻なのは、事業そのものへの影響です。今回の相談事例のように、元請会社から届出受理番号等の提示を求められるケースは少なくありません。コンプライアンス(法令遵守)を重視する大手企業ほど、この傾向は強いでしょう。
届出を怠っていることが発覚すれば、
- 元請会社のコンプライアンス審査で問題となり、取引継続に影響する可能性がある
- 発注者から法令遵守体制を疑われる可能性がある
- 公共工事等においても、法令違反の内容によっては事業上の不利益につながる可能性がある
といった、ビジネスに直結する大きなリスクにつながりかねません。「知らなかった」「うっかりしていた」では済まされない事態になる可能性があります。なお、請負金額が500万円未満で、建設業法上「軽微な建設工事」に該当する電気工事であっても、それだけを理由に電気工事業法上の手続きが不要になるわけではありません。
【最重要】建設業許可の更新時、みなし登録の変更届も忘れずに!
最後に、専門家として最もお伝えしたい、非常に見落としがちな重要ポイントです。それは、建設業許可を5年ごとに更新した際には、みなし電気工事業者の変更届も必要になるということです。
みなし登録は、有効な建設業許可があることが大前提です。そのため、建設業許可を更新した場合には、その旨を届け出なければなりません。この届出を忘れてしまうと、古い許可情報に基づいた不正確な状態が続き、いざという時に「届出情報が現状と違う」というコンプライアンス上の問題になりかねません。
建設業許可の更新手続きに追われ、こちらの変更届を失念してしまうケースは後を絶ちません。許可更新とみなし登録の変更届は、必ずセットで行うものだと覚えておいてください。これは、役員変更などの変更届と同様に重要な手続きです。
既に登録電気工事業者だった会社が建設業許可を取った場合も注意
以前から登録電気工事業者として事業を営んでいた会社が、新たに建設業許可を取得した場合も注意が必要です。
この場合、従来の登録のまま続けるのではなく、建設業許可の取得に伴い、みなし登録電気工事業者への手続きが必要となります。神奈川県も「既に電気工事業の登録をしている登録電気工事業者が建設業許可を取得した場合も、開始届が必要」と明示しています。
まとめ|複雑な手続きは専門家への相談が近道です
今回は、建設業許可を持つ電気工事業者が行うべき「みなし電気工事業者」の届出について解説しました。
【この記事のポイント】
- 建設業許可だけでは不十分。電気工事の安全を守る「電気工事業法」に基づく届出等が必須。
- 建設業許可があれば、簡便な「みなし」制度(届出または通知)が適用される。
- 建設業法の「営業所技術者等」と電気工事業法の「主任電気工事士」は役割も資格要件も異なる。
- 届出等を怠ると、罰金だけでなく、信用失墜など大きな事業リスクにつながる。
- 建設業許可の更新時には、必ずみなし登録等の変更届もセットで行うこと。
ここまでお読みいただき、二重規制の理由や手続きの概要はご理解いただけたかと思います。しかし、実際に書類を準備し、異なる管轄窓口へ申請するのは、思った以上に手間と時間がかかるものです。
社長やご担当者様が本業に集中し、一日も早く安心して事業に取り組めるよう、こうした複雑な許認可手続きは専門家にご相談いただくのが有力な選択肢です。
「うちの場合はどの書類が必要?」「主任電気工事士の要件は満たしている?」など、少しでもご不安な点があれば、お気軽にお声がけください。まずは、無料相談から状況をお伺いし、必要な手続きや対応方法をご提案いたします。

司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(いがり よしあき)です。地元・神奈川県川崎市を拠点に、中小企業の社長さんのお悩みに耳を傾け、許認可や労務、法律手続きなどの「困った」を一緒に解決しています。3つの資格を活かし、建設業や宅建業の許可、助成金のご相談など、経営の身近なサポーターとして活動中。どんな小さなことでも、まずは気軽にご相談ください。
