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後継者を取締役にできない…事業承継で直面する経管問題
「今の役員は軒並み50代後半から60代。このままでは将来、経営業務管理責任者(経管)がいなくなってしまう…」
「次世代の候補はいるんだが、まだ30代と若くて、いきなり取締役に抜擢するのは社内的に難しい…」
これは、私が実際に建設業の社長からいただいた、非常に切実なご相談の一例です。ご家族で経営されている会社であれば、後継ぎのお子様を取締役にして5年間の経験を積ませる、という方法が一般的かもしれません。しかし、ある程度の規模の会社で、株主総会もきちんと運営されている場合、若手社員をすぐに取締役に選任するのは、決して簡単なことではありませんよね。
建設業許可を維持する上で、経管の要件を満たす人員の確保は重要です。もし経管が不在になれば、たった1日の空白でも許可が取り消される可能性すらあります。
では、取締役にならなければ、経管になる道は閉ざされてしまうのでしょうか?
取締役以外の立場で経管要件を満たせる可能性もあります。
実は、取締役でなくても、①執行役員や事業部長といった「経営業務の管理責任者に準ずる地位」で、経営業務を執行する権限の委任を受けて5年以上経営業務を管理した経験、または②6年以上経営業務の管理責任者を補佐した経験が認められれば、経管要件を満たせる可能性があります。ただし、そのためには「その地位で、実際に経営業務を執行する権限を与えられていたこと」を、客観的な書類で証明しなければなりません。
この記事では、単なる役職名ではなく、執行役員や部長といった「準ずる地位」で経管要件を満たすための具体的な証明方法について、専門家の視点から徹底的に解説します。この記事では、将来の経管候補者を計画的に育成するために、どのような社内体制や証明資料を整備すべきかを整理します。
「準ずる地位」とは?役職名より「経営への実質的関与」が本質
まず、「準ずる地位」とは一体何を指すのでしょうか。これは、法人の役員ではないものの、役員に次ぐ職制上の地位にあって、建設業の経営業務について総合的に管理した経験が認められるポジションのことを指します。
重要なのは、行政庁が審査で見るのは「執行役員」や「事業部長」といった肩書きそのものではない、という点です。最も重視されるのは、その役職で「経営に実質的に関与していたか」という実態に他なりません。
具体的には、建設業の経営における重要な業務、例えば、
- 資金の調達や管理
- 技術者や技能者の配置計画
- 工事の請負契約の締結
といった業務について、どのような権限を持ち、どのように関わっていたかが問われるのです。単なる現場の責任者や、役員の指示を仰ぐだけの立場では不十分で、自らの判断で経営上の重要な意思決定を行っていた客観的な証拠が求められます。
執行役員や事業部長などは、取締役会の決議等により具体的な業務執行権限を委任されている場合に、「準ずる地位」での経営管理経験として評価され得ます。一方、支店長や営業所長は、営業取引上対外的に責任を有する地位として、経営業務管理責任者としての経験に該当し得る場合があります。つまり、肩書き以上に、その中身である「権限と実績」が本質となります。

認められやすい役職と求められる権限
「準ずる地位」として認められやすい役職には、一般的に以下のようなものが挙げられます。
- 執行役員
- 本部長、事業部長
- 支店長、営業所長
ただし、これらの役職に就いていれば自動的に認められるわけではありません。先述の通り、その役職にどのような「権限」が与えられていたかが決定的に重要です。
行政庁が確認する権限のポイントは、例えば次のような点です。
- 取締役会の決議を経て、正式に権限が委譲されているか
- 一定金額以上の工事請負契約を、自らの判断で締結できる権限があるか
- 事業運営に必要な予算の執行について、決裁権を持っているか
これらの権限が、社内の規程(後述します)などで明確に定められている必要があります。会社の規模や組織体制によって、求められる役職のレベル感は異なりますが、いずれにせよ、登記された役員に次ぐ立場で、独立した経営判断を行っていた実態が不可欠です。
経営業務管理責任者としての経験(5年)・執行役員等の経営管理経験(5年)・準ずる地位での補佐経験(6年)の違い
ここで、経管の要件について整理しておきましょう。建設業に関し5年以上経営業務管理責任者としての経験を有するルートのほか、経営業務の管理責任者に準ずる地位で、経営業務を執行する権限の委任を受けて5年以上経営業務を管理した経験を有するルート、6年以上経営業務管理責任者を補佐した経験を有するルートがあります。本記事で扱う執行役員等の権限委任型は、主に5年以上の経営管理経験として整理されます。
| 経営業務管理責任者としての経験 | 準ずる地位での経営管理経験 | 準ずる地位での補佐経験 | |
|---|---|---|---|
| 必要な経験年数 | 5年以上 | 5年以上 | 6年以上 |
| 経験の内容 | 役員等、事業主、支配人、支店長、営業所長等として建設業の経営業務を総合的に管理した経験 | 経営業務を執行する権限の委任を受け、執行役員等として建設業の経営業務を管理した経験 | 経営業務の管理責任者に準ずる地位で、経営業務管理責任者を補佐した経験 |
| 証明の主な方法 | 商業登記簿謄本、確定申告書、許可通知書、契約書など | 組織図、取締役会議事録、職務権限規程、稟議書など | 組織図、業務分掌規程、稟議書、決裁書など |
準ずる地位での経験は、登記簿謄本だけでは確認できないため、社内資料による実態証明が重要になります。特に、執行役員等として経営業務を管理した経験を主張する場合は、権限委任の事実とその権限に基づく業務執行の実態を、組織図、取締役会議事録、職務権限規程、稟議書などで多角的に示す必要があります。
このハードルの高さを理解せず、安易に申請準備を進めるのは非常に危険です。詳細な資料を揃えて初めて、許可の可能性を診断できる、というのが実情です。
【最重要】「準ずる地位」を立証する3つの証明書類群
ここからは、証明書類の具体的な整理方法を解説します。「準ずる地位」での経営経験を証明するためには、どのような書類を、どのような意図で準備すればよいのでしょうか。単に書類をかき集めるだけでは不十分です。行政庁の審査官を納得させるためには、以下の3つのカテゴリーに分けて、論理的に立証していく必要があります。
- ① 組織体制の客観的証拠:候補者が役員に次ぐ地位にいたことを示す
- ② 権限委譲の社内ルール:その地位に経営権限が与えられていたことを示す
- ③ 日々の経営活動の証拠:その権限を実際に行使していたことを示す
これらの書類群が、候補者の経験が単なる名ばかりのものではなく、実態を伴うものであったことを証明するのです。他の会社での経験を証明する場合、証明のハードルはさらに上がりますが、自社での証明であっても、この3つの視点は不可欠です。
①組織体制を示す証拠:組織図・人事発令書
まず、証明の土台となるのが、候補者の「地位」そのものを客観的に示す書類です。
- 組織図
当時の会社の組織構造がわかるものが必要です。この組織図上で、代表取締役から候補者への指揮命令系統が明確であり、他の部長や課長とは一線を画す、役員直下のポジションであることが一目でわかるように描かれている必要があります。 - 人事発令書(辞令)
候補者がその地位(例:執行役員)に就任した年月日が明記された書類です。証明したい期間(6年以上)の開始日がわかる発令書は、立証の起点となるため非常に重要です。
これらの書類は、候補者が役員に次ぐ職制上の地位にあったことを示す重要な基礎資料となります。ただし、役職名や発令書だけで認定されるわけではなく、権限委任の内容や実際の業務執行状況を含めて総合的に判断されます。

②権限を示す証拠:業務分掌規程・取締役会議事録
次に、その「地位」に具体的な経営権限が与えられていたことを証明します。いわば、会社の公式なルールとして、権限が定められていた証拠です。
- 業務分掌規程・職務権限規程
「どの部署が、どのような業務を担当し、誰にどこまでの権限があるか」を定めた社内規程です。この中で、候補者の役職(例:執行役員)に対して、契約締結権限や予算執行権限などが明確に記載されている必要があります。 - 取締役会議事録
取締役会設置会社の場合、これは極めて重要な証拠となります。取締役会において、「〇〇(候補者名)を執行役員に選任し、△△に関する業務執行権限を委任する」といった決議がなされた議事録があれば、権限委譲の事実を強力に裏付けることができます。
これらの規程や議事録は、「名ばかりの役職」ではなく、会社として正式に経営判断を委ねていたことを示す決定的な証拠となるのです。
③経営への関与を示す証拠:稟議書・決裁書・契約書
最後に、規程で定められた権限を「実際に、継続的に行使していた」ことを証明します。理論(規程)だけでなく、実践(日々の業務)の証拠が不可欠です。
- 稟議書・決裁書
工事の契約や資材の購入、資金の借り入れなど、経営に関するさまざまな事項について、候補者が決裁者として承認印を押した稟議書や決裁書が証拠となります。起案者ではなく、最終的な「承認者」「決裁者」であることが重要です。 - 工事請負契約書
候補者が会社の代表として、あるいは権限を委譲された担当者として署名・捺印した工事請負契約書も有効な証拠です。これが実務経験の証明にも繋がることがあります。
これらの書類は、1つや2つでは不十分です。証明したい6年以上の期間にわたって、複数年度分を継続的に提示することで、候補者が「一時的ではなく、恒常的に経営業務に関与していた」という実態を立証することができます。
「準ずる地位」での証明が認められない典型的な失敗事例
ここまで証明方法を解説してきましたが、残念ながら、書類を揃えても認められないケースは少なくありません。ここでは、申請準備で注意すべき典型的な失敗事例を紹介します。
- 肩書きだけで実態が伴わないケース
「役職は事業部長だったが、実際には現場のプレイングマネージャーで、契約や予算に関する決裁権は全くなかった」というパターンです。稟議書を見ても、すべて役員が決裁しており、本人は起案者でしかありませんでした。 - 経営会議への不参加
「組織図上は役員の直下に位置付けられていたが、経営方針を決定する重要な会議(取締役会など)の議事録に参加者として名前が一切出てこない」というケース。これでは、経営の中枢に関与していたとは到底認められません。 - 権限の範囲が限定的すぎるケース
「営業所長として一定の権限はあったものの、それは少額の契約に限られており、重要な契約はすべて本社の役員が決裁していた」という場合も、経営を「総合的に」管理していたとは評価されにくいです。
これらの失敗例からわかるように、行政庁は書類の形式だけでなく、その裏にある「実態」を厳しく見ています。例えば、候補者の常勤性が疑われるような状況も同様に厳しく審査されます。形式的な書類だけでは、実態が伴っていないと判断される可能性があります。
まとめ:経管の将来を見据えた計画的な社内体制整備を
今回は、取締役以外の「準ずる地位」で経営業務管理責任者の要件を満たすための証明方法について詳しく解説しました。
結論として、執行役員や事業部長といった立場でも経管になる道は確かに存在します。しかし、それは役員経験に比べて証明資料が多く、個別判断になりやすいルートであり、登記簿謄本で証明できる役員経験とは比較にならないほど、慎重な準備と客観的な資料による立証が不可欠です。
重要なのは、事が起きてから慌てて書類を探すのではなく、将来の事業承継や経管の交代を見据えて、中長期的な視点で後継者候補を育成し、その権限を明確にするための社内体制を計画的に整備しておくことです。
例えば、将来の経管候補者を執行役員に任命する際には、
- 取締役会で正式に権限委譲の決議を行い、議事録を残す。
- 職務権限規程を改定し、その役職の権限を明文化する。
- 日々の業務においても、意識的に決裁者として稟議書を回付させる。
といった準備を、数年前から計画的に進めておくことが、経管交代時の許可要件欠如を防ぐために重要です。
「準ずる地位」の証明は、個別の会社の組織体制や規程、そして残されている書類によって判断が大きく変わる、非常に専門性の高い分野です。手遅れになる前に、ぜひ一度、建設業許可に詳しい専門家にご相談ください。貴社の状況を丁寧にお伺いし、最適な解決策をご提案いたします。
当事務所のご相談から許可申請までの流れについても、ぜひご参照いただければ幸いです。

司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(いがり よしあき)です。地元・神奈川県川崎市を拠点に、中小企業の社長さんのお悩みに耳を傾け、許認可や労務、法律手続きなどの「困った」を一緒に解決しています。3つの資格を活かし、建設業や宅建業の許可、助成金のご相談など、経営の身近なサポーターとして活動中。どんな小さなことでも、まずは気軽にご相談ください。
