専任技術者の兼任は不可!転職時の登録抹消忘れトラブル事例

【トラブル事例】良かれと思った営業所技術者等(旧・専任技術者)の届出が行政からストップ!

事業拡大を目指す建設会社のB社は、経験豊富なAさんを迎え入れました。Aさんは以前、建設会社X社で専任技術者を務めていたベテランです。B社はAさんを新たに専任技術者として登録するため、早速、行政庁へ変更届を提出しました。

変更届はいったん収受されました。B社の社長も一安心。これで新しい体制で事業を加速できる、そう考えていました。

しかし、その数週間後、事態は急変します。行政庁の担当者から、一本の電話がかかってきたのです。

「B社さんですか?先日ご提出いただいたAさんの専任技術者登録の件ですが、Aさんはまだ前職のX社で専任技術者として登録が残っている状態です。このままでは二重登録になってしまうため、この状態ではB社の営業所技術者等として認めることができません。まずX社側の届出状況を整理してください。」

突然の連絡に、B社の社長は対応に戸惑いました。Aさんに確認すると、「X社はもう解散したと聞いているのですが…」とのこと。良かれと思って進めていた建設業許可の手続きが、思わぬ形で一時的に進められなくなったのです。

実は、このような「登録抹消忘れ」のトラブルは、決して珍しい話ではありません。幸い、このケースではX社の廃業届が未提出だったことが判明し、そちらの手続きを進めることでAさんの登録は無事に抹消され、B社での専任技術者登録を完了できました。しかし、一歩間違えれば、許可の維持に関わる重大な問題に発展しかねない状況でした。

なぜ、このような事態が起きてしまうのでしょうか。この記事では、その根本的な原因から具体的な対処法、そして未然に防ぐためのチェックポイントまで、専門家の視点から詳しく解説していきます。

なぜ専任技術者は2社で兼任できないのか?「常勤性」の原則を解説

今回のトラブルの根底にあるのは、建設業法が定める「常勤性の原則」という非常に重要なルールです。建設業許可を維持するためには、常勤役員等(経営業務管理責任者等)や営業所技術者等(旧・専任技術者)が、申請会社で常勤し、営業所技術者等については勤務を要する営業所で専らその職務に従事している必要があります。このテーマの全体像については、建設業許可の要件で体系的に解説しています。

なぜ法律は、ここまで厳格に「常勤」であることを求めるのでしょうか。それは、建設業許可が、国民の生活や安全に直結する重要なインフラを担う事業者に対して与えられる、社会的信用の証だからです。許可業者は、常に適正な経営と確かな技術力を保持し、責任ある施工体制を維持する義務があります。

そのためには、経営や技術の責任者が、片手間ではなく、その会社に腰を据えて日々の業務に専念していることが大前提となります。もし、一人の技術者が複数の会社を掛け持ちできてしまうと、責任の所在が曖昧になり、建設工事の品質や安全性の確保が難しくなる恐れがあるのです。「常勤性の原則」は、建設業許可制度の信頼性を支える重要なルールと言えるでしょう。神奈川県の手引きでも、他の建設業許可業者の常勤役員等、補佐者、営業所技術者等、令3条使用人と重複している場合や、他で常勤している場合は許可できないと明記されています。

建設業許可における専任技術者の常勤性の原則を解説する図解。1社に専念するOKな例と、複数社を兼任するNGな例が対比されている。

「常勤」とは?具体的な判断基準

では、法律上の「常勤」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。これは単に「毎日会社に来ている」というだけでは不十分で、行政庁は以下の要素を総合的に見て判断します。

  • 勤務場所と時間: 許可を受けようとする営業所の営業日・営業時間において、常時勤務していること。
  • 勤務実態: 役員・従業員などの立場に応じて、申請会社で継続して勤務している実態が確認できること。
  • 社会保険等の加入状況: 適用事業所に該当する場合は、勤務先で健康保険や厚生年金保険、雇用保険に適切に加入していること。適用除外に該当する場合もあります。
  • 他の職務との関係: 他の法人で常勤の役員であったり、個人事業主であったりしないこと。

特に注意が必要なのは、他社での役職や事業です。たとえ名目上だけであっても、他社の代表取締役などに就任している場合は、「その会社での職務に専念している」と見なされ、常勤性が否定される可能性が非常に高くなります。

退職しても登録は自動で消えない!行政手続きの仕組み

多くの経営者が誤解しがちな点ですが、従業員が会社を退職したからといって、行政庁に登録されている専任技術者としての情報が自動的に消えることはありません。

建設業許可に関する情報は、すべて許可業者からの「届出」に基づいて管理・更新されています。つまり、専任技術者が退職した場合、会社側が「この人が辞めたので、登録から外してください(または後任のこの人に交代します)」という変更届を提出しない限り、データ上はその人が在籍し続けていることになってしまうのです。

冒頭の事例でB社が直面した問題の核心は、まさにこの点にあります。X社がAさんの退職(あるいは会社の解散)に伴う手続きを行っていなかったため、Aさんの登録情報が行政庁の記録上に残っていた、というわけです。

専任技術者の登録が残っていた場合の具体的な対処法

もし採用した人材に前職の登録が残っていることが判明した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。慌てずに、以下のステップで進めていきましょう。

ステップ1:前職の登録状況を確認する

まずは、情報の正確性を担保するために、管轄の行政庁(都道府県の建設業課など)に問い合わせ、登録状況を正式に確認することが第一歩です。「〇〇という人物が、以前△△という会社で専任技術者として登録されていたか、またその登録が現在も有効か確認したい」といった形で問い合わせます。

自治体によっては電話で回答してくれる場合もありますが、個人情報保護の観点から、書面での閲覧申請が必要になることもあります。不確かな情報で動く前に、まずは公的な記録を確認し、現状を正確に把握することが重要です。

ステップ2:前職の会社に「変更届」の提出を依頼する

前職の会社が現在も営業している場合は、その会社に連絡を取り、専任技術者の削除または交代の「変更届」を提出してもらうよう依頼するのが最も基本的な解決策です。

その際、ただ「手続きをしてください」と伝えるだけでなく、採用したご本人から事情を説明してもらのがスムーズでしょう。会社としては、退職した元従業員のために手間をかけることになるため、丁寧なコミュニケーションが求められます。場合によっては、変更届の作成に必要な情報をこちらで準備するなど、協力的な姿勢を示すことも円満な解決につながります。神奈川県など一部の自治体では、届出の郵送が可能なケースもありますので、前職の会社の負担を軽減する方法を一緒に考えてあげるのも一つの手です。

【特殊ケース】前職の会社が解散・廃業している場合

冒頭のB社の事例のように、前職の会社がすでに存在しない場合は話が少し複雑になります。この場合、確認すべきは「変更届」ではなく、「廃業届」が提出されているかどうかです。

会社が法的に事業を辞めた場合、建設業許可についても廃業届を提出する義務があります。X社が建設業を全部廃業するのであれば廃業届を提出し、許可業者としての登録を整理する必要があります。一部業種のみの廃業であれば、営業所技術者等の変更届等も必要になります。

もし、会社は解散しているのに廃業届が未提出という状況であれば、清算人など、法令上届出を行える立場にある人に連絡し、廃業届を提出してもらう必要があります。しかし、連絡先が不明であったり、協力を得られなかったりすることも少なくありません。このような困難なケースでは、行政庁と相談しながら対応を進める必要があり、必要に応じて行政書士へ相談することも有用です。

トラブルを未然に防ぐ!採用時に確認すべきチェックポイント

一度トラブルが起きてしまうと、解決までに時間も労力もかかります。最も賢明なのは、こうした問題を未然に防ぐことです。採用活動の段階で、以下のポイントをチェックする習慣をつけましょう。

建設業許可の専任技術者候補の採用面接で、経営者が応募者の経歴を真剣に確認している様子。

面接時:建設業許可に関する経歴のヒアリング

専任技術者や経営管理責任者としての採用を検討している候補者には、面接の段階で建設業許可に関する経歴を具体的にヒアリングすることが重要です。以下の質問は必ず確認するようにしましょう。

  • 「過去に、他の会社で専任技術者や経営管理責任者として登録されていた期間はありますか?」
  • 「もし登録されていた場合、その会社を退職される際に、ご自身の登録を抹消する手続き(変更届の提出)が行われたか把握していますか?」

候補者本人が手続きの詳細まで把握していないケースも多いですが、この質問をすることで、会社として「常勤性」や「二重登録」の問題を重要視しているという姿勢を示すことができます。また、実務経験の証明など、他の要件を確認する上でも重要な情報となります。

内定後:前職での登録抹消手続きの確認

面接で過去の登録歴が判明した場合は、内定を出した後、入社日までの間に具体的なアクションを取ってもらうことが肝心です。

候補者本人から前職の会社に連絡してもらい、自身の登録が現在どうなっているかを確認し、もし残っているのであれば、速やかに変更届を提出してもらうよう依頼してもらいましょう。

そして、可能であれば「変更届の控え」など、手続きが完了したことを証明する書類のコピーを提出してもらうようお願いするのが最も確実です。口約束だけでなく、書面で確認することで、入社後の手続きをスムーズに進めることができます。

【よくある質問】他社の代表取締役でも専任技術者になれる?

専任技術者の兼任問題に関連して、非常によくいただく質問の一つが「自社の役員が、別の会社で代表取締役もやっているんだけど、専任技術者になれる?」というものです。

原則は不可!常勤性の証明が極めて困難な理由

結論から言うと、他社の代表取締役を兼務している方が専任技術者になるのは、原則として認められません。その理由は、やはり「常勤性の原則」にあります。

代表取締役は、その会社を代表して業務を執行する法律上の重い責任を負っています。社会通念上、代表取締役は「その会社に常勤している」と見なされるのが一般的です。そのため、別の会社で「専らその職務に従事する」専任技術者になることは、論理的に両立が難しいと判断されてしまうのです。

行政庁によっては、非常勤であることの証明書などを提出すれば認められる可能性もゼロではありません。他社に代表取締役等が複数おり、その会社では非常勤であることが客観的に確認できる場合など、例外的に認められるケースがあります。神奈川県の手引きでも、他社の代表取締役等である場合の取扱いが明示されています。

【事例】複数社の兼任が認められないケース

以前、当事務所にご相談いただいた事例で、この原則を痛感する出来事がありました。

すでに建設業許可をお持ちの小規模なC社の社長から、「事業ごとに会社を分けたくて、別会社を設立してそちらでも許可を取りたいんだよね」というご相談でした。私はすぐにこうお伝えしました。

「社長、新しい会社でも許可を取るとなると、そちらにも専任技術者と経営業務の管理責任者が、それぞれもう一人ずつ必要になりますが、ご準備は大丈夫ですか?」

すると、社長は少し驚いた様子でこう返されました。

「え、そうなの?2社とも事務所は同じ場所にするつもりなんだけど、それでもダメなのかい?」

「はい、たとえ場所が同じでも、法律上は別々の法人格(会社)になります。ですから、それぞれの会社に、専任の要件を満たす方が必要になるんです。社長がお一人で両社の責任者を兼ねることはできません」

この説明に、社長は深く納得されたようでした。結局、新たな人材を確保するハードルが高いことから、新会社の設立と許可取得は断念されることになりました。この事例が示すように、営業所技術者等は、原則として申請会社に常勤し、他社で常勤することはできません。たとえ経営者が同一人物であっても、法人格が異なれば厳格に適用されます。ただし、同じ会社内で複数の業種の専任技術者を兼任することは、一定の要件を満たせば可能です。

まとめ:専任技術者の採用は登録状況の確認が不可欠

今回は、専任技術者の転職・採用時に起こりがちな「登録抹消忘れ」トラブルについて解説しました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。

  1. 兼任は不可: 専任技術者は「常勤性の原則」により、複数の会社で同時に登録することはできません。
  2. 自動抹消はされない: 従業員が退職しても、会社が変更届や廃業届を提出しない限り、行政庁の登録は残ったままになります。
  3. 事前確認が重要: トラブルを避けるため、採用活動の段階で候補者の過去の登録状況を確認し、必要であれば入社前に抹消手続きを促すことが不可欠です。

建設業許可の手続きは、単純な書類作成だけでなく、こうした目に見えないリスクが潜んでいます。手続きの遅れは、事業計画そのものに影響を与えかねません。「うちの会社は大丈夫だろうか?」と少しでも不安を感じたら、行政書士に相談することで、必要な手続きや確認事項を整理しやすくなります。当事務所では、無料相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

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