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「支店だけ特定に…」そのお悩み、建設業許可の基本ルールから解説します
「受注が拡大している東京支店だけ、大規模な元請工事に対応できるよう特定建設業許可を取りたい。でも、神奈川の本社は今まで通り一般建設業のままでいいのだけれど…」
先日、このようなご相談をある建設会社の社長からいただきました。複数の営業所をお持ちの経営者の方であれば、一度は同じようなことを考えたことがあるかもしれません。
成長著しい支店のために、会社全体で大きな投資や体制変更をするのは負担が大きいと感じるお気持ちは、非常によく分かります。
しかし、残念ながら、建設業許可のルールでは「同一の工事業種について、本社は一般、支店は特定」というような使い分けは認められていません。
なぜなのでしょうか?
この記事では、司法書士・行政書士・社会保険労務士である私、猪狩佳亮が、複数営業所を持つ建設業者の皆様が抱えるこの疑問に、専門家の視点から分かりやすくお答えします。
読み終える頃には、以下の点がすっきりとご理解いただけるはずです。
- なぜ、営業所ごとに一般と特定を使い分けられないのか、その根本的な理由
- 会社全体として特定建設業許可へ移行するために、本社と支店それぞれでクリアすべきこと
- そもそも、自社に本当に特定建設業許可が必要なのかを判断する正確な基準
目先の課題解決だけでなく、会社全体の事業戦略を考える上での重要なヒントをご提供しますので、ぜひ最後までお付き合いください。建設業許可の全体像については、建設業許可の基礎知識で体系的に解説しています。
結論:同一業種では営業所ごとに一般・特定を使い分けられない
早速ですが、本題の結論からお伝えします。同じ建設工事の業種について、本社は一般建設業、支店は特定建設業というように、営業所ごとに許可の種類を分けることはできません。
もし、東京支店で管工事業の特定建設業許可が必要なのであれば、会社全体として管工事業の許可を「特定」へ切り替える必要があります。さらに、神奈川の本社でも管工事業を営むのであれば、本社にも特定建設業の管工事業に対応できる特定営業所技術者を配置する必要があります。
では、なぜこのようなルールになっているのでしょうか。それは、建設業許可の考え方の根幹に関わる理由があるからです。
建設業許可は「会社×業種」の組み合わせで判断される
多くの方が誤解されがちなのですが、建設業許可は「営業所」という場所に対して与えられるものではありません。許可は、「許可業者(会社全体)」に対して、「業種ごと」に与えられます。
つまり、「A建設株式会社」という法人全体に対して、「管工事業については特定」「内装仕上工事業については一般」といった形で許可が与えられるのです。

この「会社×業種」という許可の単位が、大原則です。そのため、同じ「管工事業」という業種について、A支店は特定、B本社は一般という状態は制度上、存在し得ないのです。
特定建設業許可には、多額の下請契約を伴う元請工事において下請業者を保護するという重要な役割があります。そのため、一般・特定の区分は営業所ごとではなく、許可を受ける建設業者について業種ごとに定められます。
ちなみに、複数の都道府県に営業所を置く場合は国土交通大臣許可、一つの都道府県内のみの場合は都道府県知事許可が必要となりますが、この許可の単位の考え方はどちらも同じです。
【例外】異なる業種であれば一般と特定は併用可能
ここまで「同一業種では分けられない」と強調してきましたが、裏を返せば、業種が異なれば、一般建設業許可と特定建設業許可を併用(混在)させることが可能です。
例えば、会社として以下のような許可の受け方は全く問題ありません。
- 管工事業:特定建設業許可
- 内装仕上工事業:一般建設業許可
- 電気工事業:一般建設業許可
このように、事業の柱となっている大規模工事が見込まれる業種だけを「特定」とし、その他の業種は「一般」のまま維持するという戦略は、多くの企業で採用されています。例えば、主力である管工事業に加えて消防施設工事業の許可も持っている場合、管工事業だけを特定にする、といった選択が可能です。
自社の事業内容と将来の受注計画を見据えて、どの業種を特定にするべきか、戦略的に検討することが重要になります。
特定建設業許可が必要になる金額要件とは?
「支店だけ特定」はできないと分かりましたが、では、そもそもどのような場合に特定建設業許可が必要になるのでしょうか。「大きな工事」という曖昧なイメージで捉えていると、思わぬところで法令違反となる可能性があります。
特定建設業許可が必要になるのは、「発注者から直接請け負った(=元請となった)1件の工事につき、下請業者に発注する代金の合計額」が一定の基準以上となる場合です。
ここで混同しないよう注意が必要なのは、「元請としての受注金額」そのものではなく、「下請への発注合計額」が基準になるという点です。
その基準となる金額は、2025年2月1日に施行された改正後の建設業法施行令により、以下の通り定められています。
- 建築一式工事の場合:8,000万円以上
- 建築一式工事以外の場合:5,000万円以上
この金額は消費税込みの金額で判断します。この基準以上となる下請契約を締結して施工しようとする場合には、あらかじめその業種について特定建設業許可を受けておく必要があります。ちなみに、建設業許可が不要とされる軽微な工事の判断基準とは考え方が異なるため注意が必要です。
判断基準は「下請への発注合計額」【具体例で解説】
金額要件を正しく理解するために、具体的な例で見ていきましょう。
【ケーススタディ】
あなたが元請として、発注者から1億円の管工事を請け負ったとします。この工事を施工するために、複数の専門工事業者へ下請発注をしました。
- A社(バルブ設置工事):3,000万円
- B社(配管溶接工事):2,500万円
この場合、下請への発注額の合計は 3,000万円 + 2,500万円 = 5,500万円 となります。
管工事(建築一式工事以外)の基準額は5,000万円以上ですから、このケースでは特定建設業許可が必要になる、ということです。たとえ下請1社あたりの金額が基準未満でも、合計額で判断されるのがポイントです。
【専門家からの補足】元請が提供する材料費の扱い
ここで一つ、実務上の重要な注意点があります。もし元請であるあなたの会社が材料を支給し、下請業者は施工だけを行う場合、その材料費は下請代金に含めません。元請会社が材料を購入して下請業者に支給し、下請業者が施工のみを請け負う場合、元請会社が提供する材料等の価格は、特定建設業許可の要否を判断する際の下請代金には含めません。この点を知っているかどうかで、特定許可の要否が変わるケースもあるため、契約内容の精査が非常に重要です。
参照:建設業法施行令
会社全体で特定へ移行する際に本社と支店で満たすべき2つの要件
「支店だけ」は無理だと理解し、会社全体で特定建設業許可へ移行(「般特新規」といいます)することを決断した場合、どのような準備が必要になるのでしょうか。
乗り越えるべきハードルは、大きく分けて2つあります。
- 【会社全体】厳しい財務状況が求められる「財産的基礎」
- 【各営業所】高度な資格を持つ「営業所技術者」等の配置
特定建設業許可は、下請業者を保護する観点から、一般建設業許可よりも格段に厳しい要件が課せられています。特に、本社と支店の両方で人的な要件をクリアする必要があるため、複数営業所を持つ企業は周到な準備が不可欠です。

【会社全体】厳しい財務状況が求められる「財産的基礎」
まず、会社全体としてクリアしなければならないのが、健全な財務状況を示す「財産的基礎」です。これは、直前の決算書(貸借対照表)において、以下の4つの基準をすべて満たす必要があります。
| 項目 | 基準 | 備考 |
|---|---|---|
| 欠損の額 | 資本金の額の20%を超えていないこと | |
| 流動比率 | 75%以上であること | (流動資産 ÷ 流動負債) × 100 |
| 資本金の額 | 2,000万円以上であること | ― |
| 自己資本の額 | 4,000万円以上であること | 純資産合計の額 |
一般建設業の要件が「自己資本500万円以上」等であることと比較すると、そのハードルの高さがお分かりいただけるでしょう。これらの数値は、税理士が作成した決算書を基に、建設業許可申請用の財務諸表を作成して証明します。事前に顧問税理士とも相談し、自社の財務状況を正確に把握しておくことが不可欠です。場合によっては、増資などの財務改善策が必要になることもあります。
【各営業所】高度な資格を持つ「営業所技術者」等の配置
次に、本社と支店、それぞれの営業所で満たすべき人的要件です。特定建設業許可では、工事の品質と安全を担保するため、営業所に配置する技術者(特定営業所技術者)に、より高度な能力を求めます。
具体的には、特定建設業許可では、許可を受けようとする建設業の種類に応じて、次のような要件を満たす営業所技術者等を、それぞれの営業所に常勤で配置しなければなりません。
- 国家資格者等(例:1級管工事施工管理技士など)
- 指導監督的実務経験を有する者(一般の営業所技術者要件を満たし、かつ元請として4,500万円以上の工事で2年以上の指導監督的な実務経験がある者)
ただし、管工事業を含む指定建設業7業種(土木工事業、建築工事業、電気工事業、管工事業、鋼構造物工事業、舗装工事業、造園工事業)で特定建設業許可を受ける場合、指導監督的実務経験の要件だけでは足りず、国家資格者または大臣特別認定者等の要件を満たす必要があります。
冒頭の相談事例のように、神奈川の本社と東京支店の双方で管工事業を営む場合には、本社と支店のそれぞれに、管工事業の特定営業所技術者の要件を満たす人を配置する必要があります。どちらか一方にいれば良いというわけではありません。
さらに、支店(従たる営業所)には、契約締結などの権限を持つ「令3条の使用人」(一般的には支店長や営業所長)を配置することも必要です。これらの役員や技術者の体制を全営業所で整えることが、般特新規申請の重要な鍵となります。
特定許可への移行を検討する際のチェックリストと相談の重要性
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。「支店だけ特定」という当初の考えから、会社全体で取り組むべき課題へと視点が移ってきたのではないでしょうか。
最後に、あなたの会社が特定建設業許可への移行を具体的に検討する際に、確認すべきポイントをチェックリストにまとめました。
【特定建設業許可 検討チェックリスト】
- □ 受注を予定している元請工事で、下請への発注合計額が基準(建築一式以外5,000万円/建築一式8,000万円)を超えそうですか?
- □ どの工事業種で特定許可が必要ですか?
- □ 直近の決算書は、特定許可の財産的基礎(4つの基準)をすべてクリアしていますか?
- □ 特定許可を取得したい業種について、1級国家資格者などを全ての営業所に常勤で配置できますか?
- □ 支店(従たる営業所)に、支店長などの「令3条の使用人」を配置していますか?
これらの項目に不安な点がある場合、要件の確認が不十分なまま進めると、申請準備のやり直しや受注計画への影響が生じる可能性があります。
特定建設業許可への移行は、一部の営業所の都合だけで判断できるものではなく、会社全体の事業計画、財務戦略、そして人材配置計画が密接に絡み合う、重要な経営判断です。必要な手続きにかかる期間も考慮し、早めに準備を始める必要があります。
「うちの場合はどうだろう?」「この技術者で要件を満たせるだろうか?」など、具体的な疑問やご不安がございましたら、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。あなたの会社の状況を丁寧にお伺いし、最適な許可戦略をご提案させていただきます。

司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(いがり よしあき)です。地元・神奈川県川崎市を拠点に、中小企業の社長さんのお悩みに耳を傾け、許認可や労務、法律手続きなどの「困った」を一緒に解決しています。3つの資格を活かし、建設業や宅建業の許可、助成金のご相談など、経営の身近なサポーターとして活動中。どんな小さなことでも、まずは気軽にご相談ください。
