公共工事の入札に参加するために避けて通れないのが、経営事項審査(以下、経審)です。初めて経審を受ける建設会社の社長や、毎年の更新を迎えているご担当者の中には、「とりあえず決算が終わったから、申請書類を作って提出しよう」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、経審は単なる事務的な書類提出の手続きではありません。算出される総合評定値(P点)は、多くの発注機関で入札参加資格の格付けや発注基準を決める重要な要素として使われます。発注者によってはP点に独自の主観点を加えてランクを決定するため、経審の評点は、自社がどの規模・区分の公共工事を狙うかという受注戦略に大きく関わります。なお、このテーマの全体像については、公共工事への第一歩!経営事項審査(経審)の仕組みを徹底解説で体系的に解説しています。
この記事では、なぜ経審の申請前、さらには決算を迎える前に「事前の点数シミュレーション」を行うべきなのか、そして単なる書類作成の代行ではなく、建設業許可・経審に精通した行政書士へシミュレーションや対策の検討を依頼する具体的なメリットについて、当事務所での実例を交えながら詳しくお伝えします。
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経審で事前の点数シミュレーションが不可欠な理由
経審を受けるにあたり、申請書を作成する前の段階で「自社が何点くらいになりそうか」を予測する事前シミュレーションは欠かせません。なぜなら、経審の制度上、決算が確定した後や審査結果が出た後になってからでは、点数を改善するための対策がほとんど打てない仕組みになっているからです。
審査基準日は決算日であり事後の対策が難しいため
経審の評点を構成する各項目、とりわけ経営状況(Y点)や自己資本額・平均利益額(X2点)、さらには社会性等(W点)の多くは、原則として直近の「審査基準日(=決算日)」時点の状況や財務数値を基準にして算定されます。
つまり、決算日を過ぎて決算書が確定してしまった後や、いざ経審の申請書類を作ろうという直前のタイミングになってから「やっぱりもう少し点数を上げたい」と思っても、すでに審査基準日は過去のものです。今からさかのぼって決算日時点の自己資本を増やしたり、借入金を減らしたりすることはできません。そのため、当年度の経審に反映できる対策は極めて限られてしまいます。
希望する評点を目指して実効性のある対策を講じるには、決算を迎える前から点数アップの年間スケジュールを意識し、決算見込みの段階で事前シミュレーションを行っておくことが何より重要になります。
結果通知後に希望の点数へ変更することはできないため
もう一つ押さえておきたい重要な原則は、経審を受けて「総合評定値通知書(結果通知)」が手元に届いた後に、「希望していた入札ランクに届かなかったから点数を変更したい」「やはり別の評価項目を使って出し直したい」と思っても、自社の都合で自由に修正や再審査ができるわけではないという点です。
結果通知書の内容が申請した内容と異なる場合などには、一定期間内に再審査を申し立てることができます。しかし、申請書の記入漏れや記入ミス、確認資料の不足による否認など、申請者側の事情によるものは原則として再審査の対象になりません。また、制度改正に伴って特例的な再審査制度が設けられる場合もあります。「完成工事高の平均年数の選び方を変えたい」「計上する建設機械を追加したい」といった理由で、後から評価項目を選び直して点数を調整することは認められていません。
なお、公共工事を請け負うための経審の有効期間は「審査基準日(決算日)から1年7か月」と定められていますが、一度結果通知が出てしまえば、通常は次の決算日を審査基準日とする経審を受けて新たな結果通知を得るまで、その評点が自社の評価として用いられることになります。だからこそ、申請書を提出する前に専用ソフト等で正確な点数を予測し、納得したうえで申請に臨むことが不可欠なのです。
経審の根幹となる審査基準日の定義や考え方については、登録経営状況分析機関の解説もあわせてご確認ください。
参照:審査基準日について(CIAC.JP)
受注方針と入札ランクに合わせた目標評点の設定
経審の事前シミュレーションを建設業許可・経審に精通した行政書士に依頼する大きな価値の一つが、「自社の受注方針や施工能力に合った目標評点(入札ランク)を見極められること」です。
経審というと「1点でも高い点数を取ることが正義」と思われがちですが、実務の現場では必ずしもそうとは限りません。ここで、当事務所にご相談いただいた空調工事業者X社様の事例をご紹介します。
従業員10人以下の規模で事業を営むX社の社長から、「これから経審を受けて入札に参加したいのだが、うちの点数がどのくらいになるか不安だ」とご相談をいただきました。お話を詳しく伺うと、X社が参加を希望する自治体の入札制度では、最上位のSランクに入ってしまうと、発注される対象工事が「1億円以上の大規模案件」に限られてしまうとのことでした。
しかし、現在のX社の従業員数や施工体制では、1億円を超えるような大規模工事を元請として請け負うことは現実的に困難です。社長は「無理をして点数をできるだけ高くするのではなく、自社の規模や施工能力にぴったり合った工事が発注される『Bランク』に確実に入りたい」と強く希望されていました。
そこで、直近の決算書や技術者の資格情報などの資料をお預かりし、当事務所の経審専用ソフトを使って綿密に評点をシミュレーションしました。その結果、現在の経営状況や技術力であれば、社長が希望されるBランクの基準内に収まる評点となる見通しが立ちました。事前に具体的な数値を確認できたことで、社長にも「これで安心して申請の準備を進められる」と大変ホッとしていただくことができました。
このように、経審では単に最高点を目指すのではなく、自社が実際に受注したい工事の規模を踏まえ、事前に評点を把握しておくことが経営判断として非常に重要になります。

高得点だけでなく施工能力に合う格付けを見極める
多くの自治体や官公庁の入札参加資格では、経審の総合評定値(P点)や自治体独自の主観点をもとに、S・A・B・C(あるいはA・B・C・D)といった「格付け(ランク)」が行われます。そして、それぞれのランクに応じて入札に参加できる工事の規模(予定価格帯)が区分けされています。
もし自社の施工体制や人員規模を顧みずに点数だけを追い求め、背伸びをして上位ランクに入ってしまったらどうなるでしょうか。発注者によっては、格付けされた等級ごとに参加できる工事の予定価格帯が定められているため、上位ランクに入ることで、従来狙っていた価格帯の工事に参加しにくくなる場合があります。一方で、より大規模な案件が主な対象となり、自社の施工体制とのミスマッチが生じることもあります。これでは、せっかく点数が上がったのに、かえって受注の機会を失うことになりかねません。
自社の現在の実力で、どのランクに格付けされる見込みなのか。まずは専用ソフトによる事前シミュレーションで現在地を正確に把握し、「自社に最も適したランクに入れるか」を確認しておくことが、堅実な公共工事受注への第一歩となります。
評価項目の選択や証明資料は審査基準のルールに従う
近年、行政庁は建設業許可や経審における虚偽申請に対して極めて厳しい姿勢で臨んでおり、万が一不正が発覚すれば、許可の取消処分や長期間の営業停止・指名停止など、会社の存続に関わる重大なペナルティを受けることになります。
私たち行政書士が行うシミュレーションやご提案は、当然ながら法令および審査基準の手引きで適法に認められているルールの範囲内で行うものです。例えば、以下のような項目については、制度上、申請者側で選択や判断を行う余地があります。
- 完成工事高(X1点)の算出における「2年平均」と「3年平均」の選択
- 一定の条件のもとで認められる、完成工事高・元請完成工事高の「業種間積み上げ(加算)」の選択
- 審査基準日時点で加点対象となる建設機械の確認と、車検証・特定自主検査記録表等の証明資料の準備
こうした適法な選択ルールを踏まえたうえで、どの方法が自社の受注方針に最も合致するかをシミュレーションし、裏付けとなる証明資料を漏れなく揃えて申請準備を進めていくことが、適切な支援のあり方です。
決算前の財務対策による経審点数の比較シミュレーション
建設業許可・経審に精通した行政書士に依頼する2つ目の大きな価値は、「決算を迎える前に、複数の財務対策による点数変化を比較できること」です。
こちらも、当事務所で実際にお手伝いした建設会社A社様の事例をご紹介します。決算を数ヶ月後に控えたA社の社長から、「決算前に銀行からの借入金を返済したり、DES(債務の株式化)を行ったりすると、経審の点数はどのくらい変わりますか? あるいは、あまり変わらないのでしょうか?」という具体的なご相談をいただきました。
先ほど解説したとおり、経審では決算日時点の財務状況がY点(経営状況)やX2点(経営規模)にダイレクトに反映されます。そのため、決算を締める前の段階で対策を検討されたA社社長のご判断は、非常に的確なものでした。
当事務所では早速、試算表などをもとに経審専用ソフトを使用し、「現状のまま決算を迎えた場合」「手元資金で借入金を返済した場合」「役員借入金についてDES(債務の株式化)を実施した場合」など、複数のケースについて評点がどう変動するか詳細なシミュレーションを行いました。
比較の結果、A社様の場合は、無理に手元資金を減らして借入金を返済するよりも、DESを実施して負債を減らしつつ自己資本を厚くした方が、経審の総合評定値(P点)が効果的に上昇する見込みであることが明確に分かりました。この客観的な数値結果をもとに、A社様では決算日までにDESを実行に移すことを決断されました。
さらに当事務所では、経審の点数シミュレーションにとどまらず、司法書士としてDESの実行に不可欠な株主総会議事録等の作成から、法務局への増資登記の申請まで、すべて窓口一つでお手伝いさせていただきました。

借入金返済やDESなど複数ケースで評点の変化を比較する
経審のY点(経営状況分析)は、「純支払利息比率」「負債回転期間」「自己資本比率」など、合計8つの財務指標をもとに算出されます。また、X2点では決算日時点の「自己資本額」そのものが評価対象となります。
そのため、直感的に「借金を返せば点数が上がるはずだ」と考えて手元の現預金で借入金を返済すると、資金繰り上の手元資金が減少する注意点があるほか、評点計算上も「負債回転期間」や総資産の圧縮に伴う「自己資本比率」は改善する一方で、X2点の評価対象である「自己資本額」そのものは増えず、他の指標の状況や各指標の上下限値によっては期待したほどY点が伸びないこともあります。一方で、社長などからの借入金(役員借入金)を資本金に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ:債務の株式化)を行えば、現預金を流出させることなく負債を減らし、同時に純資産(自己資本額)を増やすことができます。
どの財務対策が最も効果的かは、その会社の現在の貸借対照表や損益計算書のバランスによって1社ごとに全く異なります。決算を迎える前に専用ソフトで複数パターンを試算・比較し、「この対策を行えばY点が何点、X2点が何点変わるのか」を目に見える形で確認してから実行に移すことが、失敗しない経審対策の要となります。
司法書士兼業ならDESの議事録作成や増資登記まで一貫対応
シミュレーションの結果、「よし、決算日までにDES(債務の株式化)を実施しよう」と決まった場合、注意しなければならないのが法務手続きのスケジュールです。当期の経審にDESの効果(負債の減少および自己資本の増加)を反映させるためには、必ず「審査基準日(=決算日)」までに株主総会等の決議や出資の履行を完了させ、増資(募集株式の発行)の効力を発生させておく必要があります。そのうえで、効力発生から原則2週間以内の法定期限内に法務局へ変更登記を申請し、経審の申請時には裏付け資料となる登記事項証明書等を準備できるように段取りを組まなければなりません。
ここで問題になるのが、一般的な行政書士事務所では「法務局への商業登記手続き」を取り扱うことができない(司法書士または弁護士の独占業務である)という点です。そのため、行政書士にシミュレーションをしてもらった後、急いで別の司法書士を探して一から事情を説明し、登記を依頼するといった手間やタイムロスが生じてしまいます。
その点、当事務所(司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所)は、代表である私自身が行政書士・司法書士・社会保険労務士の3つの国家資格を保有しています。経審の点数シミュレーションから、税理士先生との連携、DESに必要な株主総会議事録等の作成、そして法務局への増資登記の申請まで、別々の事務所を回る必要なく、当事務所のワンストップサービスで迅速かつ確実に完結させることが可能です。
単なる申請代行と事前試算・対策提案まで行う行政書士支援の違い
ここまでお読みいただき、経審において事前のシミュレーションがいかに重要かをお分かりいただけたかと思います。最後に、経審の依頼先を検討する際の判断軸として、「書類作成のみの申請代行」と「事前予測や対策提案まで行う行政書士の支援」の違い、そして初回相談時に準備しておきたい資料について整理します。
書類作成の代行と事前予測・対策提案まで行う支援の差
行政書士に経審を依頼する場合、そのサポート範囲には大きく分けて2つのスタイルがあります。両者の違いを比較すると、以下のようになります。
| 比較項目 | 一般的な書類作成・申請代行 | 事前シミュレーション・対策提案を含む支援 |
|---|---|---|
| 関与のタイミング | 決算が確定した後(申請直前) | 決算前(試算表の段階)から通年で関与 |
| 主なゴール | 確定した資料をもとに、不備なく申請書類を作成・提出すること | 受注方針に合う目標評点を見極め、最適な対策を比較・実行したうえで申請すること |
| 財務対策の比較 | 原則行わない(確定した決算書をそのまま転記) | 借入金返済やDESなど、複数ケースの評点変化を専用ソフトで試算・比較 |
| 他手続きとの連動 | 経審単体での書類作成になりやすい | 事前の決算変更届の書き方や、増資登記・労務手続きまで一貫してサポート |
インターネット上には無料の経審計算ツールなども公開されており、ツールによっては経営状況分析(Y点)の各指標や財務改善による評点への影響を試算できるものもあります。もっとも、対応している機能はツールごとに異なるうえ、実際の申請にあたっては入力数値の元となる決算書・試算表の精査や、各加点項目の適用条件を満たしているかの判断、さらには自社の受注方針に照らして試算結果をどう解釈し具体的な手続きへ落とし込むかという点にこそ、実務に精通した行政書士へ依頼する本来の価値があります。
また、経審をスムーズに受審するためには、前段階として毎年提出する決算変更届の段階から、経審のルールに合わせた工事経歴書を作成し、完成工事高の整合性を確保しておく必要があります。単なる清書代行ではなく、決算変更届から経審、その先の入札参加資格申請までを見据えて伴走してくれる依頼先を選ぶことが、結果として社長の時間と労力を大きく節約することにつながります。
依頼先の選び方と初回相談時に準備しておきたい資料
経審の事前シミュレーションや申請サポートの依頼先を選ぶ際は、以下の3つのポイントを確認してみてください。
- 経審専用ソフトを導入し、複数パターンのシミュレーション実績が豊富にあるか
- 毎年の決算変更届から経審、自治体の入札参加資格申請まで一貫して見通せるか
- 財務対策(増資登記など)や労務面(社会保険・建退共・社内規定など)の関連手続きまでワンストップで相談できるか
特に3つ目の労務面については、経審のW点(社会性等)では、建退共への加入、建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用状況、技術者・技能者の能力向上に関する取組など、人材確保・育成や労務管理と関係の深い評価項目があります。
なお、雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入状況については、令和8年7月1日施行の経審改正により、W点の評価項目から削除されています。これらの社会保険加入については、現在は建設業許可の要件として適正な加入状況が確認される仕組みとなっています。
当事務所へ初回のシミュレーションやご相談をご希望される際は、お手元に以下の資料をご準備いただけますと、より具体的で精度の高いお話ができます。
- 直近3期分の決算報告書(税務申告書一式) ※決算前のご相談の場合は、今期の最新の試算表もご用意ください。
- 建設業許可通知書および許可申請書の副本
- 過去に提出した決算変更届・経審結果通知書の控え(すでにお持ちの場合)
- 所属する技術者の保有資格が分かる資料(合格証書や監理技術者資格者証など)
「自社の今の状況だと、経審でどのくらいの点数になりそうか知りたい」「次の決算に向けて、どんな対策ができるか一緒に考えてほしい」。そんなお悩みをお持ちの建設会社の社長は、ぜひ一度、司法書士・行政書士・社会保険労務士いがり綜合事務所へご相談ください。お客様1社1社の受注方針に寄り添い、3つの資格をフル活用した最適なサポートをご提案いたします。
初回のご相談や経審シミュレーションに関するお問い合わせは、いがり綜合事務所への問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

司法書士・行政書士・社会保険労務士の猪狩佳亮(いがり よしあき)です。地元・神奈川県川崎市を拠点に、中小企業の社長さんのお悩みに耳を傾け、許認可や労務、法律手続きなどの「困った」を一緒に解決しています。3つの資格を活かし、建設業や宅建業の許可、助成金のご相談など、経営の身近なサポーターとして活動中。どんな小さなことでも、まずは気軽にご相談ください。
